自分がこの漁協管内に通い出した頃、この渓は禁漁区だった
しかし、わざわざ禁漁にしなくても、こんな幹線国道のすぐ横を流れる細い谷で、釣りをしようなどと考える人間がいるなどと思えないような流れに見えた
ある年、その下流の支流に入り、その小さな谷との合流点まで釣り上がると、この付近に表示されていたはずの”禁漁”を示すロープが外されていることに気づいた…
その時、いつも漁券を買うよろづ屋での出来事を2つ、思い出した
ひとつはその前年、よろづ屋のご主人が悲しそうに言っていた「最近は役所の方から『もっと禁漁区を減らせ』とわれとって…」というセリフ
そしてもうひとつ。それはこの年そこでもらったエリアマップのその谷から、”禁漁”の表示がなくなっていたこと…
初めて足を踏み入れたその谷は、国道から眺めていたときには想像もできなかったほど濃密な自然の中にあった
苔むした倒木、モリアオガエルの卵がべっとりと貼り付いた枝葉、そしてそれらが創り出す緑のトンネルの中の小さな流れからは、次々とイワナが飛び出した
10センチほどの稚魚から25センチを越えるものまで…どれも痩せてはいたが、色黒で白班の小さなそのイワナたちからは、この厳しい環境の中で命を繋いできた”野生”がひしひしと伝わってきた
そんな谷をかなり上流まで釣り上がり、脱渓点を探していたときのことだった
いきなり上空の景色が開けて来たと同時に、山肌が大きく削り取られている場所があった
そこで釣りを切り上げ、途中に見える林道らしきところまで這い上がると、その看板が目に入った
”別荘地 分譲中!”
国道から伸びる荒れた未舗装路の先にある森の中で、その毒々しい赤い文字で書かれた看板を見たとき、ここが”解禁”されたわけを理解した…
もはや、この谷のイワナを保護する理由などない…いや、保護など不可能だったのだろう
やがて何かの冗談にしか思えなかった”分譲地”には、洒落たログハウスが何棟も建ち並んだ
毎年、夏前の”書き入れ時”には、その別荘の建築に使われるモルタルをかき混ぜるのに使われた汚水の流入で下流まで川は白く濁った…
そして、今年初めてこの谷に入ったこの日、イワナは最後まで顔を見せてくれなかった
モルタルのカスが堆積したプールでは、この夏を迎える前に放流されたであろうアマゴがライズを繰り返していた
この谷で、イワナが次々とフライに飛び出したあの日…
それは、もうずっと昔のことのようだった
*today's tackle
rod:EUFLEX XFP 6'09 #3 (TIEMCO)
reel:CANTATA 2200 (UFM ueda)
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