日本で開催されるグランプリを観戦するときは、たとえそれがテレビ観戦であったとしても、何か不安にも似た緊張感を持って見てしまう
モニターに映し出されているレースは、地球の裏側で行われるGPと何ら変わらない中継画像だし、同じ国内とはいえ何百キロも離れたサーキットでの出来事なのに、自宅の窓を開ければエグゾーストノートが聞こえてきそうな…そんな特別な感覚に陥ってしまう
もちろん、今回も同じような感覚で生中継される時刻に自宅に戻り、一瞬たりとも見逃さないつもりでテレビにかぶりついた
しかし、鼓動の高鳴りのピークはレッドシグナルがブラックアウトした瞬間だった
レースはラップを重ねるごとに”妙な落ち着き”を見せ、それに伴って自分の緊張感も薄れていき、チェッカーのときには何とも言えないフラストレーションを感じていたのだが…
クールダウンラップ、表彰式、そしてそれぞれのインタビューと見ていくうちに、 『もしかしたら、その感覚(フラストレーション)こそが、このレースが見せたグランプリの”奥深さ”なんじゃないか…』と感じるようになっていた…
敢えて勝利を捨て、ニッキーとのポイント差を詰めることだけを目指したロッシ…
しかし、その目論見も最終ラップの中野の転倒で僅かばかりの誤算が生じてしまった
一方のニッキーだって、何も5位を狙っていたわけではないだろう
このもてぎで、またしてもジベルノーやメランドリの後塵を拝することなど考えてもいなかったはずだ
そして何よりフラストレーションを感じていたのはこの男だろう
このもてぎでは絶対的な相性の良さを見せる玉田誠
今シーズン、不振を極める彼も、ここに戻ってくれば必ず”何か”を取り戻せると信じていたに違いない
しかし彼が言うところの”セッティングが出ない”マシンは、このもてぎでも見せ場を作ることなく後方に沈んだ
インタビュアーとほとんど目を合わせることなく、寂しげな笑みを浮かべながら『最後まで全力で走った』の一言を絞り出す姿は、やり場のない感情を何とか抑え込もうと格闘しているかのようだった
そして中野真矢
最終ラップに起きたアクシデントにより、チェッカー受けることすらできなかった彼の心中を誰もが心配する中、レース後のインタビューに姿を見せた彼はとても晴れやかな笑顔を見せた
『見せ場を作りたかった』
『あそこは行くしかない』
『彼(セテ)だって抜かれたくないだろうから、(接触は)仕方ない』
しっかりとインタビュアーの目を見ながらそう語る彼の目には、もう次のグランプリが見えている
そう、シーズンはまだ終わっていない
そればかりか、この一見”中途半端”な見所ばかりだったレースが、逆に今シーズンのクライマックスを、ライダーにとっては激しく、計算の通用しないものに、そして見る側にとってはこの上なく楽しみなものにしてしまったのだ
この日本GPが見せたのは、間違いなくグランプリが孕むその危険な魅力…”カオス”そのものだった
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