ついにメランドリが勝った。それも、初開催のトルコで初日のフリー走行から圧倒的な順応力を見せ、予選こそチームメイトの一発タイムにポールを譲ったものの、レースでは逆にそのジベルノーを自爆させ、さらには追いすがるロッシを力で引き離しての初優勝だった
これまでケガや大クラッシュをきっかけに輝きを失っていくライダーを何人も見てきた
超高速の旧ホッケンハイム第1コーナーでグラベルに叩きつけられ、子供のように震えていた傍若無人の天才、ジョン・コシンスキーはそれ以後急速に勢いを失った
ホーシャム・ハリケーンと呼ばれた豪快な走りで、GPフル参戦1年目で初優勝を記録したケビン・マギーは、ラグナセカでババ・ショバートを傷つけ、さらに翌年自らも重傷を負い、以後は優勝争いに絡むことなくGPを去った
ダリル・ビーティーも八代俊二も、ケガによる肉体的なハンディキャップよりも精神的な後遺症がレーサーとしての本能を消し去ってしまったように感じる
しかし、もてぎで思わぬ重傷を負ってから、メランドリは何かを吹っ切ったような力強さを見せるようになった
吹っ切った”それ”は一体何なのか?
今はまだ、それが何かはわからないが、そのヒントはチェッカー後のロッシの態度に隠されているような気がする
前々戦カタールのウィニング・ランで、メランドリと固い握手を何度も繰り返したロッシは、このトルコでは”親友”メランドリの初優勝を祝福することを避けるように、ハイスピードのウィリーでピットレーンに帰ってきた
ウィナーズ・サークルでも2人の微妙な距離は埋まらない
スタッフと喜びを分かち合うメランドリに一瞥をくれ、メカニックにマシンの状況を険しい表情で訴えるロッシ…
イタリアのプレスたちが陣取る一角の前で、やっと視線を合わせた2人は、笑顔で抱擁をするものの、すぐにまた別々のインタビュアーとの受け答えに去ってしまった
やがて、表彰式でメランドリのためのイタリア国歌が流れ出す直前、ロッシがサングラスをかけた
サングラスのまま静かな表情で国歌を聴き終えたロッシは、そのあとのシャンパンファイトではいつもの”小僧”ぶりを発揮した
アシスタントの女性にシャンパンを浴びせ、そしてメランドリにも豪快にシャンパンを噴きかけ、笑顔で肩を何度もたたいてインタビュー・ルームへ向かった
「マルコはとても速かった。ときには全然かなわないほどに…」
ロッシがこの一言を絞り出すまでには、おそらく想像を絶するほどの葛藤があったに違いない
何度も首をふりながらクールダウンラップを駆け抜け、スタッフに向かって怒りをあらわにしながら、喜びを爆発させるメランドリを黙殺する…
崩れてしまいそうな自らのプライドと記録、そして友人関係…それらのすべてに押しつぶされそうになったロッシは、目の前の現実と自らの心の間に”サングラス”という壁を築くことにより、やっとメランドリの速さを客観視できたのではないだろうか?
最終戦バレンシア…サングラスを外したロッシの目に映るのはメランドリの後姿か、それとも…
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