The End (MotoGP 2010 Round-17 PORTUGAL)
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 それは、王者としての誇りを賭けた渾身の走りだった

 その肩書きは、すでに”かつての王者”であり、その相手は”新チャンピオン”ではあったが、バレンティーノ・ロッシは間違いなく王者としてホルヘ・ロレンゾに立ちはだかった

 もてぎ以降、幾度と無く見せてきた卑しいブロックも、この日のロッシには不要だった
 ヤマハ離脱の発表以降、時折顔をのぞかせてしまった集中力の欠如もまったく感じさせなかった

 ただ純粋に速さ、そして強さでロレンゾを倒すこと…それこそがこの日のロッシを突き動かす強烈なモチベーションだった

 王者対王者のプライドを激しくぶつけ合うバトルは、調子を上げてきたはずのホンダ勢をはるか後方に置き去り、食らいついていこうとしたケーシー・ストーナーをコース外へと葬り去った

 悲劇的な怪我からの復帰以降、ロッシが初めて見せた鬼神の走りは、怖れを知らない”新チャンピオン”に対しての大きな大きな”釘”になるはずだった。12ラップ目までは…

 しかしロレンゾの速さ・強さは”かつての王者”の予想を遥かに超えていた
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 一度は2秒近くまで離されたロッシに対し、今度はラップあたりコンマ5秒も削るペースで追いすがり、17ラップ目の長いストレートエンドのブレーキングでロッシを一撃で仕留めて見せたのだ

 その後もペースを落とさない新王者がチェッカーを受ける姿を、かつての王者は8秒以上後方からただ眺めることしかできなかった…

 この日、明らかにひとつの時代が終焉を迎えた

 ロッシの時代が終わったのは、骨折したムジェロでも、タイトルを失ったセパンでもなかった

 それは、この日のエストリルの17ラップ目の1コーナーだったのだ

 怪我とその後遺症、チャンピオンシップポイントの計算、チームの思惑…さまざまな要因から、力と力の真っ向勝負をなかなか見せなかった2人の王者がついに演じたバトル…

c0041105_22524722.jpg そのあまりに明白な力の差に、多くの人はロッシが勝てなかったことに何か別の理由を探してしまうかもしれない

 でも、もう認める時だろう

 ロッシの時代は終わったのだと
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# by taros_magazine | 2011-02-20 22:57 | motorcycle diary
Cold Wind (MotoGP 2010 Round-16 AUSTRALIA)
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 フリー走行:0.757秒
 予選:0.668秒…

 ケーシー・ストーナーが土曜日のそれぞれのセッションで2番手のライダーに対してつけたこの驚くべきタイム差に、他のすべてのライダー達は決勝レース前に早々と”白旗”を揚げてしまったようだった

c0041105_10385085.jpg ウォームアップでは2番手のマルコ・シモンチェリから10番手のミカ・カリオまでが1秒以内だというのに、当然のようにトップタイムをたたき出したストーナーは、そのシモンチェリの先1秒890という途方もない彼方にいた

 そして何よりこのタイムシートが如実に物語っているのは、今まさに大きな時代の節目が訪れている、ということではないだろうか?

 これまでもストーナーが驚異的な走りを見せることは何度もあった
 タイトルを獲得した2007年シーズンにはそれこそ”圧倒的”な速さ・強さを見せつけての戴冠だった

 それでも、それでも彼の速さの”真実”を見抜くのは容易なことではなかった
 
 確立された”勝ちパターン”を頑なに実践するそのスタイルと、王座を失った2008シーズンに見せた競り合いでの脆さ…

 そして台頭してきたホルヘ・ロレンゾという強烈なキャラクターの持ち主に対し、わずか3年前の王者という肩書きをもってしても”埋没”してしまった感は否めなかった

 しかし、その速さ・強さは錆付いていないどころか驚くべき進化を遂げていた

 決勝レースでは、タイトルを決め重石を下ろしたロレンゾのフルアタックを、ストーナーはまったく問題にしなかった

 彼だけが違うスペシャルタイヤを履き、違う排気量のマシンを走らせているかのように、本気でチェイスしている"New Champion"を置き去りにし、長いストレートを颯爽とウィーリーで駆け抜け、チェッカーを受けた

 この2人、ストーナーとロレンゾの勝負だけなら、『ストーナー、地元で圧勝』というフレーズで結ばれるだけのレースだった

 しかし、このレースから感じた”時代の節目”の本質はそれではない

 マレーシアGPがそうだったように、寝たフリをしていてもバレンティーノ・ロッシがこの抜群の相性を誇るサーキットでも勝利を狙ってくることは明らかだった

 しかし金曜日からすべてのセッションで中位に埋もれ、決勝でもベン・スピーズをやっとの思いでオーバーテイクし、食い下がるニッキー・ヘイデンにはもてぎの時のような"T-Bone アタック"でなんとか表彰台をキープするのがやっと…
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 そこには"Living Legend"としての誇りも、このスポーツ史上最大のスターであるという輝きもまったく感じられなかった

 だからこそ、スピーズやヘイデンはロッシに対しても接近戦をまったくためらわず、表彰式ではロッシがまるでそこに居ないかのようにストーナーとロレンゾは2人で盛り上がっていたのだろう 

 去年のここでのストーナーとのスーパーバトルが幻だったかのように、まったく存在感を示すことなく静かにポディウムから去っていったロッシ…

 バレンティーノ・ロッシという”ブランド”が守り続けてきたのは、彼の富や名声だけではない
 時にそれは若いライダー達にとってはコース上で”結界”として機能してきた

c0041105_1041258.jpg しかし、目に付くようになってきたラフな走りと時折見せてしまうモチベーションの低下がそのブランドの価値を下げてしまえば、もう誰もロッシに遠慮などしないだろう

 傾きかけた太陽の下、フィリップアイランドの寒風がロッシの背中に容赦なく吹きつけた


 

 
 
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# by taros_magazine | 2010-10-28 10:44 | motorcycle diary
No More Excuse (MotoGP 2010 Round-15 MALAYSIA)
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 一体、あの強さは何処へ行ってしまったのか?
 あの速さは何だったのか?

 4強と言われた今シーズン、序盤からディフェンディング・チャンピオン バレンティーノ・ロッシを圧倒するような速さを見せ、そのロッシが不在の間にはすでに王者の風格さえも漂わせるほどの強さをも見せ付けていたホルヘ・ロレンゾ…

 しかしタイトルが現実のものとして近づいてくるにつれ、レース運びは手堅いものとなり、傲慢にさえ見えたメンタリティは萎縮してしまっていった

 そして目前で起こってしまったミザノの悲劇と、その後の気負い、さらに急ピッチで戦闘力を増してきたホンダ陣営に対し、これまで絶対的な信頼を寄せていたM1のウィークポイントが露呈すると、あの大胆でしなやかなライディングはすっかり影を潜め、もてぎではコンディションを取り戻したロッシのラフファイトに対し、レース後に”口撃”で応戦するのが精一杯だった
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 "2010 WORLD CHAMPION"
 
 あの屈辱のバルセロナから、血のにじむような思いで努力を重ね、そのために全てを捧げてきたチャンピオンシップが、皮肉なことに今の彼にとっては全てについての”エクスキューズ”になってしまっていたのだ
  
 このマレーシアでも、ロレンゾはその口実に対し忠実なレースをして見せた

 ダニ・ペドロサが欠場し、ケーシー・ストーナーが早々にレースから消えても、決してこのレースの勝利に対して色気など見せない

 スタートで出遅れたロッシが派手なオーバーテイクショーを繰り広げながら追い上げ、そして先行していっても、もてぎの時のように深追いなどしない
 
 250時代からのライバル、アンドレア・ドヴィツィオーゾがそのロッシに懸命に追いすがっていっても、あくまで傍観者に徹した
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 そして何とか表彰台の一角が確保されると、後は待ち焦がれた瞬間をただひたすらに待つだけだった…
  
 かくして、悲願のタイトルを獲得したロレンゾ…

 しかし、その栄光のチェッカーフラッグをもって、これまでのすべてのエクスキューズを彼は失うこととなった

 ほぼ完全復活となったロッシ、同じくレースに復帰してくるペドロサ、そして圧倒的なモチベーションで望んでくるストーナー、生き残りをかけるドヴィツィオーゾ、成長し続けるスピーズ…

 ”王者”ロレンゾの前に立ちはだかる、かつてないほど大勢の獰猛な野獣たちに、もう一切の言い訳は通用しない

 本当の”ビッグゲーム”が、今始まったのだ

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# by taros_magazine | 2010-10-17 01:16 | motorcycle diary
Ruthless Aggression (MotoGP 2010 Round-14 JAPAN)
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 バレンティーノ・ロッシとホルヘ・ロレンゾのラスト6ラップに亘る激しい接近戦は、アンドレア・ドヴィツィオーゾを相手に”退屈な勝ちパターン”をほぼ決めたケーシー・ストーナーを無視するかのように、もてぎのファンを大いに熱狂させたという

 近年ではあのラグナセカでのロッシVSストーナーの大バトルを、そしてオールドファンには89年から何年も続いたウェイン・レイニーとケビン・シュワンツのそれを彷彿とさせ、久々にモーターサイクルレースのバトルの面白さを見せつけたレースとして、世界中のファンを喜ばせたようだった

 そしてレース後、ロッシがいつものようにバトルを”エンジョイ”できたとコメントしたのに対し、もう一方の主役であるロレンゾは、ラグナでのストーナーや2005年のヘレスのセテ・ジベルノーの件を引き合いに出し、ロッシとその走りを容認し続ける運営サイドを激しく非難した

c0041105_2351034.jpg しかし、これらの”激しすぎるバトル”を含めて、ロッシはグランプリを盛り上げるヒーローとして最終的には肯定されてきた

 ロレンゾを擁護すべきヤマハチームでさえも、バトルそのものの危険性ではなくチームの利益という観点からロッシに注意喚起して幕引きを図り、当然のごとく運営サイドからは何らペナルティを課されることはなかった

 つまりは『ロレンゾもほかのライバルも、ロッシと同じように熱いハートと圧倒的なテクニックを持って対抗すればいいだろう』…それが今回のようなバトルに対する大方の見方なのだろう

 しかし、今回に限っては違うような気がしてならない

 あのコークスクリューでのストーナーとのバトルは、チャンピオンシップを奪回する上で絶対に勝たなくてはならない1戦であり、またマシンの戦闘力の差をカバーするために、当のロッシ自身が誰よりもリスクを背負ったオーバーテイクだった

 ヘレスの最終ラップの最終コーナーも、ロッシは確かに強引にインに入ったが、その時点でジベルノーにはクロスラインという選択肢もあったように思えた

 そして何よりも決定的にこれまでのロッシと違うのは、バトルの相手に対する”Respect”が感じられなかったことだ

 お互いに激しい敵対心を持っていたAMA時代を経て、グランプリで対峙するようになったレイニーとシュワンツの”曲芸”とも言えるドッグファイトには、常に相手に対する絶大な信頼と敬意が感じられた
 
 だからこそ、あれだけ激しいオーバーテイクをお互いに繰り返しながらも、レースが終われば表彰台でヘラヘラと笑って話ができたのだ
 
 タイトルはもちろん、レース終盤のトップ争いでもないポジションで、すでにチャンピオンシップが絶望的なロッシがリタイヤだけは避けたいロレンゾに肉弾戦を挑む…”ドアを空ける、空けない”以前の段階ですでに”アンフェア”ともいえる状況で、ロッシは何を誇示したかったのか?

 こういう時こそ、純粋な走りの凄さでライバル達の尊敬を勝ち得てきたのがバレンティーノ・ロッシではなかったのか?

 すでにタイトルを失うことが決定した今、ロッシはもっと大切なものまで失おうとしていることに気づいているのだろうか?
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# by taros_magazine | 2010-10-09 23:18 | motorcycle diary
the show must go on (MotoGP 2010 Round-13 ARAGON)
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 あの悲劇的な瞬間から、何度も何度も同じ疑問が脳裏をよぎる
 『いったい、僕たちは何度このような悲劇を繰り返してきたんだろう…』と


 かつて親友、若井伸之の死を目の当たりにし、今また愛すべき友を失った2人…
 
 このサンマリノのサーキットにやってきて、スタート前まで富沢にコースの攻略法を伝授していた坂田和人

c0041105_021363.jpg あの瞬間を現地で見た彼は、これからテレビ局のモニターに映し出されたクラッシュシーンを見ても、レース解説者として語り続けることができるのだろうか…
 
 そして世界に通用するライダーを育てるべく、自らのチームを率い、そして富沢のヨーロッパでの世話人でもあった上田昇

 事故直後から変わり果てた富沢に寄り添っていた彼は、これからも未来ある若者たちに”レース”を走ることの尊さを教えることができるのだろうか?

 
 同じ”サンマリノ”の名を冠したイタリアのイモラで、盟友アイルトン・セナのクラッシュを見た後藤治

 彼は、自らが開発したエンジンを駆った若き才能がまたもや散ることとなった今、これからもスピードを追求していくことができるのだろうか?

c0041105_0211484.jpg あの日、同じようにアスファルトに横たり、そしてストレッチャーで運ばれていった加藤大治郎の姿を見たバレンティーノ・ロッシ、ロリス・カピロッシ、マルコ・メランドリ…

 HRCから支給されたスクーターを譲ったダニ・ペドロサ

 ゼッケン48の後継者として弟のように富沢をかわいがっていたホルヘ・ロレンゾ…

 この日もつい数時間前まで、一緒に笑って話をしていた青山博一、小山知良…

 何度もいっしょに食事をしたり、ふざけあっていたエクトル・バルベラ、アルバロ・バウティスタ、マルコ・シモンチェリ…

 そしてデ・アンジェリス、レディング…

 彼らすべてが参加し、レース前に行われた1分間の黙祷
 それは、皆に愛されたひとりの若者への祈りとともに、彼ら全員が決意をあらたにする瞬間だった

 『俺たちは走り続ける。ショーヤのため、そして不幸にも命を落としてしまった全てのライダーのために…』

 そして彼らは今年も日本にやってくる。富沢の魂とともに…
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# by taros_magazine | 2010-09-21 23:35 | motorcycle diary