危険なライダー (MotoGP 2011 Round-4 France)
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 あらためて”クレイジー”と言われた89年から90年代初めのグランプリを振り返ってみた
 
 それまでのグランプリが牧歌的に思えてしまうほど激しいドッグファイトが、全レース…いや、全ラップ、そして全てのコーナーで繰り広げられていた時代…

 時にライバルのマシンに蹴りを入れたり、尻を触って挑発したりしながらの感情剥き出しのバトルは、”エキサイト”という言葉では生ぬるいほどのインパクトを持っていた

 しかし、そんな時代にあっても接触によるクラッシュの記憶は数えるほどしかない

c0041105_22114867.jpg それもブレーキに不調を抱えていたドゥーハンがローソンやシュワンツに追突したシーンくらいだ

 それに比べてこの数年の接触・転倒の多さはいったい何なのだろう?
 125cc、250cc、Moto2、そしてMotoGP…クラスを問わず、ライバル同士は接触をもってバトルを制しようと試み、その相手を転倒させることが”勝利”であるかのように振舞っている

 そこには戦略も技術も何もない 

 ただブレーキを遅らせ、相手のインサイドに飛び込み、自分だけは転ばないようなスピードとラインをキープするか、すぐそばにいるライバルの存在に気づかないフリをして激しくマシンを振るか、だ

 そうして”結果”を残してきたライダー達が、意気揚々と次なるステージへとステップアップしていく

 いつしかサーキットは結果さえ出せば何でも許される無法地帯になってしまった

c0041105_2222176.jpg アタックを邪魔する者には鉄拳を、一人でタイムを出すことのできない”金魚のフン”には目の前でアーリーブレーキを、パドックの裏では人格攻撃を…

 ただ、それらは必ずしもライダー個人の責任だとは言い切れない
 
 ある意味、そうした風潮を”容認”してきたのがFIMの曖昧な裁定だ

 原田哲也とロリス・カピロッシの件を紐解くまでもなく、”レーシング・アクシデント”を拡大解釈してきたFIM…

 しかし出走台数の減少に歯止めがかからない今、彼ら運営サイドは自らがこれまで下してきた判断のツケを払うためにやっきになっているように思えてならない

 今回のダニ・ペドロサとマルコ・シモンチェリの接触の件で言えば、個人的にはシモンチェリがこれまでのいくつかのオーバーテイクほど危険な走りをしたようには見えなかった
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 250cc時代、彼が初優勝を飾ったムジェロのレース…あのストレートでのエクトル・バルベラとの接触に比べれば、今回の接触など”よくあるレーシング・アクシデント”だとシモンチェリが思ったとしても仕方のない程度のようにさえ思えた

 しかし、今回の裁定は思いのほか早かった

 前戦ポルトガルのプレス・カンファレンスで自らの”危険性”を悪びれることなく主張してみせたシモンチェリには、あっさりと”クロ”の判断が下された…

 このまま”厳罰化”の方向に向かっていくのなら、それはそれで良いことだろと思う

 ただ、今回のような接触がもう一度起きた時、運営サイドは本当に同じ裁定が下せるのだろうか?
 アウトから被せていったライダーがバレンティーノ・ロッシやホルヘ・ロレンゾでも…
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# by taros_magazine | 2011-05-22 22:47 | motorcycle diary
Runaway Boy (MotoGP 2011 Round-3 PORTUGAL)
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 ホルヘ・ロレンゾは、その瞬間まで思っていただろう
 
 『ダニのペースはそのうちに落ちる』と

 スタート直後から、わずかコンマ1秒ほどのディスタンスでへばり付いてくる同郷のライバルよりも、むしろ開幕戦で圧倒的なパフォーマンスを見せたケーシー・ストーナーこそが、最も警戒しなければならない”直接対決”の相手になるはずだった

 そのストーナーも同じマシンに乗るかつての同門のライバルよりも、むしろマシンパワーではハンディキャップを負っているはずのヤマハでカタールでただ一人食らいついてきたロレンゾこそが、最も逃がしてはならないターゲットとして見ていただろう

 ところが5ラップ、10ラップが過ぎても、ダニのペースは落ちない
 
 いつもと違うダニ・ペドロサに業を煮やしたロレンゾがペースを上げても、手負いのスパニッシュはまったく離されなかった

 それどころか無理にブロックするわけでもなく、ストレートエンドでもインを空けているのに、ペドロサは彼の本来のスタイルである”逃げ”を放棄したかのように、静かにロレンゾの背後で様子をうかがっているようだった

 そんな2人のスペイン人のペースに悲鳴を上げたのはストーナーだった

 落ちてくるはずのペドロサに幻惑されたかのように不安定なライディングに陥ってしまった彼は、中盤を過ぎると”因縁のライバル”であるバレンティーノ・ロッシ、そしてオフには一時シート争いを演ずることになった相手のアンドレア・ドヴィツィオーゾの2人のイタリア人が繰り広げる4位争いとの間隔をキープすることが先決となってしまった

 15ラップ、20ラップ…

 まだロレンゾの背後にはペドロサがいた

c0041105_14465733.jpg これまで何度も同じように後ろからペドロサを”料理”してきたロレンゾは、それでも自らのライディングスタイルを変えなかった

 『自分の信じるペースで走りきれば、きっとダニは…』

 しかし25ラップ目、ロレンゾのその確信が不安に変わった

 自身が最も得意とするストレートエンドでのハードブレーキング…
 
 敢えて無理なブロックをせず、今度は背後から追い詰めるべくほぼ無抵抗でペドロサにオーバーテイクを許したはずのロレンゾだったが、ペドロサの後姿はコーナーごとに小さくなっていった

 自らの完全な誤算で勝利を逃すことになったロレンゾは、ここで初めて今日最大のライバルになるはずだったストーナーとの差を計算するハメになった…

 逃げて逃げて、そして逃げ切って勝ってきた

 でもずっと競り負けてきた

 意地だけで飛ばして、最後には力尽きていた…

 それでも、ペドロサは純粋に速く走ることで勝とうとしてきた

 特にこの1年ほどの彼の走りは、まさに魂のライディングと呼べるほど気迫を前面に押し出してのものだった

 そんな走りを続けていたからこそ、この日見せたような本当の速さを身につけることができたのだろう

 そんな純粋さを持ち続けていたからこそ、この日見せたような本当の強さを手に入れることができたのだろう

 遂に壁を乗り越えたダニ・ペドロサは、どんなバトルになろうとも、誰が相手であろうとも、決して”逃げ”たりはしないだろう
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# by taros_magazine | 2011-05-05 15:11 | motorcycle diary
"Rossi Rules" (MotoGP 2011 Round-2 SPAIN)
 あえて蒸し返そう、あの日のことを…

c0041105_17291663.jpg 1989年、鈴鹿。130Rをクリアしてきた2台のF1マシンの間隔は、これまでの数周の中では最も開いているように見えた

 『このラップは無理だろう…』

 しかし、それまで何度もシケイン進入でアラン・プロストのインをうかがっていたアイルトン・セナのマクラーレン・ホンダは、最初からこのラップで差すと決めていたかのように猛然と襲い掛かった

 インにネジ込んできたセナを、プロストが右のミラーで何度も確認しているのがシケインのスタンドからはっきりと見て取れた

 そしてプロストは軽く右にステアリングを切り、最もリスクの少ない方法でタイトルを決めた…

 
c0041105_17384216.jpg 1998年、アルゼンチン…もう何も起きないはずだった

 後は、最終コーナーを抜けてタイトル獲得を告げる歓喜のチェッカーを受けるだけだった

 そしてチームと喜びを分かち合い、中でも最後まで死力を尽くして闘ったチームメイトのイタリア人からは祝福の言葉をかけてもらうはずだった
 1993年にピエール-フランチェスコ・キリがそうしてくれたように…

 しかしこの年のチームメイト、ロリス・カピロッシが最終コーナー手前で原田哲也にくれたのは、コーナーリングとは程遠いスピードとラインの"suicide attack"だった

 当然のように下された失格の裁定を受け入れることのできなかったカピロッシは、コース外でもバトルを挑み、執念でタイトルを手に入れた

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c0041105_17553686.jpg ブレーキングポイントの手前の段階でも、バレンティーノ・ロッシとケーシー・ストーナーの差は"one chance"には見えなかった

 それでも、ロッシはストーナーのインの迷いなく飛び込んでいった

 追い上げてきたリズムを崩さないうちに
 タイヤのトレッドが加熱しないうちに…

 しかし、そのスピードはロッシのコントロールを完全に超えていた

 火花を散らしながらストーナーの212Vのフロントを払うように滑っていくロッシと彼のマシン…2人にとって最悪の瞬間が訪れたかに見えた

 しかし、最悪は”被害者”であるストーナーにだけ訪れた

 ストーナーが自力でマシンを起こし、コースマーシャルたちに「押してくれ!」と叫んだとき、ロッシはすでに多くのマーシャルたちの力を借りて再スタートを切っていたのだ

 結局、ストーナーのマシンは再び息を吹き返すことなかった
 ストーナーにできることは、走り続けるロッシに対して拍手してみせることだけだった


 ロッシが故意にストーナーに当てていったとは思わない。それどころか『もしかしたら…』とさえも思っていなかっただろうと思う

 レース後の謝罪についても、ストーナーが言うようにペナルティーを回避するためなどではなく、あの時できることをまずしただけだと思う

 それでも、この件を通じてなにか違和感を感じざるを得ない 
 
c0041105_1113510.jpg それは、あのラグナセカでのバトルについてストーナーが主張し、もてぎで同じようにホルヘ・ロレンゾが主張したこと…そしてこの日のマーシャル達に対してやはりストーナーが抱いた疑惑と同じモノではないだろうか?

 ”ロッシは特別扱いされている”

 それはロッシのライディングの問題ではなく、運営サイドに対する疑問である 

 近年、テレビマネーに媚びるあまりレースの本質から逸脱したレギュレーション改正を繰り返すF1…しかし、そんな運営の中で良心を感じる数少ないモノが”接触は原則審議対象になる”という傾向だ

 それに対しFIMは、シリアスな事故が続いているにもかかわらず、ストーナーやロレンゾの疑惑に対し口をつぐんだままだ


 『アラン、君がいなくて寂しいよ』 
 
c0041105_1454517.jpg あの因縁のクラッシュから5年
 テレビ中継の解説をしていたプロストにコックピットから無線で呼びかけたセナ…2人の和解はセナが天国へ旅立つわずか数時間前の出来事だった

 不毛な確執が取り返しのつかない事故の引き金にならないために、今一度ルールの明確化を望まずにはいられない 



 *高橋江紀選手の逝去に際し、謹んでお悔やみ申し上げますとともに、心からご冥福をお祈りいたします
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# by taros_magazine | 2011-04-29 18:09 | motorcycle diary
"BLACK HOLE" (MotoGP 2011 Round-1 QATAR)
 ”ロッシ帝国”崩壊後のグランプリとは一体どんなものなのか

 4強と言われながらも、実際にはバレンティーノ・ロッシという巨星の圧倒的な引力によって周回を重ねてきた他の3つ星たちが、その力から開放された時に見せる軌道とは一体どんなものなのか…

 それは拍子抜けするほど予想どおりの風景だった
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 ケーシー・ストーナーはシーズン前からの好調そのままに全セッションでトップタイムを叩き出し、その速さをアピールするとともに、決勝ではこれまでのように逃げに徹するのではなく、相手の走りをじっくりと見切った上で一撃で仕留めるという強さをも見せつけた

 ディフェンディング・チャンピオンのホルヘ・ロレンゾも予選での絶望的なタイム差をものともせず、見事なレースマネジメントでストーナーに食い下がってみせた

 もう1つの星、ダニ・ペドロサも、ストーナーやロレンゾを相手に何度も限界ギリギリの激しいファイトを見せてくれた

 彼らはバレンティーノ・ロッシという恒星を失っても、その軌道を乱すことなくグランプリという銀河で輝きを放ち続けていた

 しかし、当のロッシだけが迷走していた
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 サテライト仕様の同じマシンに乗るエクトル・バルベラや、”元カノ”の新しい彼氏であるベン・スピーズ、さらには母国の若手ライダー2人を相手に必死にセカンドグループのリーダーを目指すその姿からは、かつて同じように電撃移籍後最初のレースとなったあの2004年の南アフリカのときに放っていた眩いばかりの光の欠片も見ることはできなかった

 長い間、タイトルはおろか勝利すらままならなかったヤマハでの最初のレースで勝って見せたロッシなら…
 ましてやストーナーが何度も勝利しているドゥカティなら…

 かつての巨星は、多くのファンや関係者が抱いたそんな期待を、すべて暗黒の渦の中に吸い込んでしまうブラックホールになってしまったかのようだった



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 このたびの震災に際し、下記のような支援が呼びかけられています。ぜひ一度ご覧ください

二輪車ライダー排気量募金









 
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# by taros_magazine | 2011-04-29 15:48 | motorcycle diary
Aesthetics (MotoGP 2010 Round-18 VALENCIA)
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 ホルヘ・ロレンゾの速さを誰よりもよく知っているのは、ほかならぬバレンティーノ・ロッシだ

 同じマシンに跨り、同じタイヤを履き、何度も何度も一番近いところでその走りを見てきたロッシだから、ロレンゾがいかに凄まじい走りをしているのか身にしみて知っていた

 だからこそ、最後にもう一度その彼に勝ちたかった
 同じパッケージで走る最後だからこそ、自分の走りでホルヘ・ロレンゾという怪物を相手にどこまで戦うことができるのかをどうしてもハッキリさせたかった

c0041105_2322066.jpg 今シーズン、これまでならモチベーションを失ってしまっていたであろうほどスタートで出遅れても、キレのある走りで徐々に順位を回復し、前方にチームメイトを確認すると、予選でフライングラップを決めたマルコ・シモンチェリをアウトから豪快にオーバーテイクし、一気に勝負に出た

 ケーシー・ストーナーを前に、ダニ・ペドロサを後ろに従えてランデブーしながらも激しく火花を散らすロッシとロレンゾ…

 しかしその結末は、まるで前戦のリプレイを見るようだった

 わずかに空いたロッシのインにロレンゾがためらわずに飛び込んだ瞬間、ロッシには”退く”という選択肢しか残されていなかった

 その後も逃げるストーナーをロレンゾが追い詰めていく一方で、ロッシはジリジリとその2人から離されていった…

 それは不思議なほど爽快な敗北だった
 恨み節も言い訳もない、完全な敗北だった

 でも、もしかしたらこういう負け方をいちばん望んでいたのは、当のロッシ本人だったのかもしれない

 自らのマシンにだけ次々とトラブル襲いかかった2006年…
 圧倒的なタイヤの性能差に手も足も出なかった2007年…

 しかし、それが単なる”エクスキューズ”でしかないことを、ロッシ自身ははわかっていたのではないだろうか?

 かつての自分がそうしてきたように、ただ速く走った者こそが王者となる…
 だからこそ、前戦のエストリルでロッシは壮絶な走りを見せた

 自らのケガがロレンゾにタイトルをもたらしたのではなく、今シーズン誰よりも速かった者が王者になったのだということを自ら確認するために、そして彼が愛して止まないグランプリの理想の姿と、王者たる者の誇りを誰の目にも明らかにするために…

 この日も完敗したロッシがフィニッシュラインを通過して最初に感じたのは、タイトルへの未練でも、勝利できなかったことに対する失望でもなかった

 彼の時代を支えたYZR M1…
 コースサイドにその愛機を止めると、その前にひざまづきフロントカウルを愛おしそうに撫でた。頬を寄せ、何度も何度も…

 完璧な敗北と美しい別れ…

 その先にあるのは、希望なのか、それとも…

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# by taros_magazine | 2011-02-20 23:15 | motorcycle diary