Catastrophe , part1 (MotooGP 2015 Round-17 MALAYSIA GP)
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 2006年、バンレンシアGP

 それはいくつもの印象的な光景が積み重なった、狂おしくも美しいレースだった

 前戦でチームメイトに追突されポイントリーダーの座を失ったニッキー・ヘイデンと、思いもしない形でタイトルに王手をかけたバレンティーノ・ロッシ

 彼本来の力強い走りで、がむしゃらに先行するヘイデン
 ポイントの計算に集中力を削がれ、カオスの深渕に嵌っていくロッシ
 大きな十字架を背負い、ニッキーのサポートのために力走するダニ・ペドロサ
 そして、2人の決戦を息をひそめて見守るかのように周回を重ねるライダー達・・・

c0041105_13275262.jpg 自らの痛恨のミスで、ほとんど手中におさめていたタイトルを逃したロッシは、数分前まではチャンピオンシップ・ランとなるはずだったそのコース上にニッキーの姿をみつけると、マシンをそっと横に並ばせ、そして新たな王者へ祝福の手を差しのべた


 あのシーンから9年、何もかもが変わってしまった

 そこには世界最高峰のカテゴリーで戦うというプライドも、他のライダーに対するリスペクトも存在しなかった

 思えば、今シーズン序盤まで噛み合っているように見えた2人のバトルも、一皮剥けば感情むき出しの肉弾戦に過ぎなかったのだ

 久々の栄冠を前にしたかつての絶対王者は、タイミングも場所もお構いなしに絡んでくる若造に辟易としていた

 すでに3連覇の望みを断たれた若き王者は、コース上の速さではなく人気を傘に着た”口撃”で常に優位に立とうとするロートルに我慢できなくなっていた


c0041105_13292987.jpg そんなフラストレーションを先に爆発させたのはロッシだった

 ジワジワと真綿で首を絞められるようにポイントを削り取られていった彼は、このグランプリが始まるとマルク・マルケスが自分を意図的に妨害していると公然と批判した

 それは、彼が長いグランプリ生活の中で何度も駆使してきた得意の心理戦…ではなかった

 彼は本気で、マルケスが自分ではなくホルヘ・ロレンソにタイトルを獲らせるために意図的にドアを閉めようとしていると思っていた

 一方でマルケスの本心はわからないままだった

 ただ、このロッシの発言が”若造”の涼しげな笑顔の裏側で燃えさかる炎にとびきりオクタン価の高い燃料を注いだことだけは確かだった











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# by taros_magazine | 2015-10-28 22:26 | motorcycle diary
el fantasma (MotooGP 2013 Round-2 America's GP)
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 今まで何人ものライダーが”彼”の再来と言われた

 ある者は若さで、またある者は破壊的なライディングで、そしてある者はその奇行で…

 しかし、彼らはいつのまにか”普通”のライダーになり、やがてグランプリを去っていった

 そして誰もが『”彼”の再来などいない』と思い知らされるのも束の間、ほとぼりが冷める頃になるとまたぞろ”彼の亡霊”に悩まされるのだ… 


 フレディ・スペンサーの走りを初めて(テレビで)見たのは、もう30年も前のことだ

 1983年、あのケニーVSフレディの世界グランプリ終了直後の全日本最終戦、鈴鹿

 ゲスト参加のスペンサーは、予選でコースレコードを出した平忠彦よりも3秒も速い圧倒的なタイムを叩き出すと、決勝でも別次元の速さで当然のように優勝をさらってしまった

 どこにでもいそうな童顔の青年と、コースで見せる驚異的なライディング…
 その凄まじいギャップは、まさに努力や経験というものとは無縁の”天才”の成せる業そのものに思えた


c0041105_232019100.jpg このオースチンの予選でのマルク・マルケスのライディングを見た瞬間、アナウンサーが記録のことに触れるまでもなくあの日のスペンサーのことを思い出した

 もちろん、前乗りで上体を起こし気味に乗るスペンサーと全身をリーンインさせるフォームのマルケスは一見すると正反対のように見える

 しかし、その深々とバンクさせたマシンと路面との間に自らの身体を挟むようにしてコーナーリングしていく姿が、ヒザを路面に激しく擦りつけてバンク角とトラクションをコントロールするようなスペンサーのフォームとどこかダブって見えたからだ

 決勝レースでもマルケスのマシンはお世辞にもベストセッティングとは思えない激しい挙動を最初から最後まで見せていた

c0041105_2320535.jpg それでも彼は、アップダウンのきついコースを、不安定なマシンのコントロールを楽しんでいるかのように縦横無尽に駆け抜け、そして勝利して見せた

 それは、あの日テレビ画面で見たスペンサーの姿…まるで氷の上をスリックタイヤで疾走しているかのようなマシンコントロールを見せていた…そのものに見えた


 そしてまた繰り返す無意味な問答… 

 はたして、彼はスペンサーの再来なのか?それとも彼もまた”亡霊”なのか?

 ただ、マルケスにはいままでの”彼の亡霊たち”と決定的に違う点があった

 それは、この30年間誰もできなかったスペンサーの記録をひとつ消し去ってみせたことだ

 そして、彼がもうひとつのスペンサーの記録を消し去る時…

 その時こそ、未だグランプリを彷徨う肥大化したスペンサーの記憶…”スペンサーの亡霊”…をも消し去る瞬間なのかもしれない

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# by taros_magazine | 2013-05-05 16:32 | motorcycle diary
killer instinct (MotoGP 2013 Round-1 QATAR)
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 ”ずっとこれがやりたかったんだ”
 
 一瞬の決断、勇気、そして己の技術とマシンに対する絶対的な信頼

 ダニ・ペドロサを、そしてマルク・マルケスのインを差していくバレンティーノ・ロッシの走りは自信に満ち溢れていた

 2月のセパン、明るさを取り戻したロッシは2日目にはトップタイムをたたき出すなど、その”復帰ロード”は傍目には順調この上なく写っていた

 しかし、この2年間で彼の心の奥底に刻まれたトラウマは、思いのほか深いものだった

c0041105_22531145.jpg カタールでのナイトレース…
 決して得意とは言えないこのコースで、それでもロッシはスタート直後から勇気を振り絞った

 7番手グリッドからまずまずのスタートを決めると、直後にはステファン・ブラドルを、次にカル・クラッチロウをイン側から抜き去ると、目の前にいるのはこの2年間、自分を苦しめ続けてきたイタリアンレッドのマシンだった

 ドゥカティでの自分と決別するかのように、猛然と1コーナーでアンドレア・ドヴィツィオーゾのインに飛び込んだロッシ

 しかし、そのラインはかつての彼がトレースしていたそれよりもわずかにワイドになってしまった

 ライン上にいたペドロサとの接触を避けるため、大きく減速したロッシが戻ったのはブラドルの後ろだった

c0041105_22534013.jpg ほんの1ラップ前には一回で仕留めたブラドル
 しかし、1コーナーでの出来事が忘れかけていたトラウマを思い出させた

 ”やっぱり…ダメなのか…”

 ヘルメットの中で自問自答を繰り返すように、ブラドルの後ろでもがき続けるロッシ
 この2年間で何度も裏切られた”フロントまわり”に対する恐怖を振り切れないまま、ラップだけが経過していく…

 かつての絶対王者の、グランプリ史上最高のエンターテイナーの”瀬戸際”を、世界中が固唾を呑んで見守る中、ついにロッシが動いた

 ブラドルのインをバックファイヤを吹き上げて抜き去ったロッシは、さらにスピードを上げ2位争いに猛然と迫っていった

 そのネコ科の動物のように、しなやかかつ獰猛なライディングスタイルは、まさしくバレンティーノ・ロッシそのものだった

c0041105_2254772.jpg ダスティなストレートで砂塵を巻き上げながらも、1コーナーのブレーキングでクラッチロウを撃墜すると、S字ではわずかに開いたペドロサのインの迷わず飛び込んでいった

 そして必死の抵抗を見せるマルケスに対しても最後までスキを与えなかった

 かつて、”ホンダが速いんじゃなく、自分が速いんだ”ということを証明するために敢行した同じ”ヤマハ移籍”で、今度は”自分が遅かったんじゃなく、ドゥカティが遅かったんだ”ということを証明したロッシ

 本能のライディングとフロントへの信頼を回復した彼は、同時にパドックでの尊敬も取り戻した

 しかし、彼が本当に取り戻さなければならないモノは、この日トップでチェッカーを受けたチームメイトが持っている…

 ロッシの復活劇は、まだ始まったばかりだ
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# by taros_magazine | 2013-05-05 14:51 | motorcycle diary
four feelings  (MotoGP 2012 summer ~ autumn)

c0041105_2145014.jpg この2年間のすべてが無駄だった

 莫大な努力と壮大な時間の浪費・・・

 込み上げてくる負の感情を押し殺したバレンティーノ・ロッシは、ピットボックスで赤いマシンから降りると、労をねぎらいにやってきたフィリッポ・プレチオージの前を素通りしていった

 あの日、イタリアの誇りに跨ったイタリアの英雄にイタリア中が熱狂した

 日本式の仕事の進め方を揶揄し、意気揚々と乗り込んできたイタリアのチームで、10個目のタイトルを獲得した後には今度は赤い4輪のマシンを…

 そんな彼の確信に満ちた未来図はあえなく崩壊した
 勝利はおろか表彰台すら遠く離れた位置でもがき続けた2年間…

 誇りも自信もズタズタに引き裂かれ、跳ね馬でのレースもあきらめた彼は、いつの頃からか日本製のマシンにもう一度乗ることだけを願うようになっていた

 果たして、彼の”最後の”願いは叶えられた
 しかし、それは一切の言い訳が許されないことを意味する

 ロッシがロッシであるための、すべてを賭けたシーズンがいよいよ始まる

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c0041105_21452637.jpg ダニ・ペドロサは、突然”化けた”のではない

 彼が誰に何と言われようと、ただひたすらに続けてきたハードアタックを、今彼は完全に自分のモノにし、そして遂に完成形に至ったのだ

 MotoGPクラスでのデビューレースが象徴したように、若き日の彼は経験を積み重ねながら着実にステップアップをしていこうと思っていたはずだ

 しかし、速さでは負けていないと思っていたニッキー・ヘイデンがタイトルを獲得し、かつての同門や同郷のライバルにも先を越され、”優等生”はいつしか誰よりも熱く、激しい走りをするようになっていた

 その兆しが見えたのは2010年のUSGPだった
 トップを走行しながら5コーナーでクラッシュパッドまで飛ばされたあのレース…

 あの時のダニは、明らかにそれまでの彼ではなかった

 前年には後続との差を計算しつくした憎らしいほど完璧な勝利を見せたそのラグナ・セカで、こじれたフロントを浮かせたままフル加速し、ゼブラをカットし、彼以外には見えない誰かを追うように攻め続け、そして散った

 そして今、ホルヘ・ロレンソをブレーキングで差し、ケーシー・ストーナーのようにフルバンクで両輪をドリフトさせる彼…

 もしかすると、あのラグナ・セカで彼が追い続けたのは今のダニ自身だったのかもしれない

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c0041105_21455619.jpg この男は決してあきらめない

 最後の最後、その瞬間まで、自分には絶対にできると信じている

 最終戦、ウェットのバレンシア

 ラップタイムで5秒遅いジェームズ・エリソンを抜きにかかったホルヘ・ロレンソは、水の浮いたラインに乗ると激しくマシンを振られた

 瞬時に抜重しリアをグリップさせ、同時にわずかにマシンを起こしフロントを回復させると、未だ挙動の収まっていないマシンで、同じく濡れた路面で、彼は再びオーバーテイクを試みた

 直後、派手にマシンから振り飛ばされるまでの、1秒にも満たない瞬間の彼の驚異的な反射神経とマシンコントロール…

 しかし、彼がこのような芸当を見せたのはこれが初めてではない

 2009年、フィリップアイランド
 高速の1コーナーでニッキー・ヘイデンのリアに接触してしまったロレンソは、そのままなすすべなくスリップダウンするかに見えた

 しかし、ダスティなトラック上で、彼はもう一度マシンをバンクさせるとコーナーの出口にマシンを向けようとスロットルを開けた

 滑るマシンをブレーキとバンク角で何度もコントロールしようと彼の試みは、接触時にすでに破損していたフロントブレーキにより果たせなかったが、200kmを超えるハイスピードでコースアウトしようとしているマシンを”立て直せる”と信じられるライダーはこの男だけだろう

 新たなチームメイトとして仇敵ロッシを迎えることすら問題にしなかった”王者”

 その寛大さの根拠は、自分の技術に対する絶対的な信頼だろう

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c0041105_21462044.jpg "GOING FISHING"

 それが、グランプリに革命的なライディング・スタイルを持ち込んだ天才に対する最後のピットサインだった

 彼以外、誰も乗りこなせなかったデスモセディチでタイトルを獲得し、カムバックしたホンダで10勝を挙げて再び王者となると、その翌年には引退を宣言してしまう…

 スマートで純朴そうな外見に似合わない激しい気性と、彼にしかできない常軌を逸したライディング…

 そのあまりの速さがもたらす完璧な勝利の方程式は、サーキットにスペクタクルを求めてやってきた観客からブーイングさえ浴びるほどだった

 それでも彼はスタイルを変えなかった

 後続に自らの影を踏ませる隙を与えず、ただひたすらにスピードを上げていく走り

 そのライディングは、ロレンソやペドロサといったライバルが成長してくるにつれて、異次元の高みへと突入していった

 気がつけば、誰もが彼のそんなライディングの虜になっていた

 その矢先の引退…

 しかし、自らの足で愛する家族の元へと帰っていけることがどれほど幸せか…ということを、この数年の間に起きた悲劇を目の当たりにした彼の仲間たちも、そして私達ファンも知っているからこそ、ストーナーを笑顔と拍手で送り出した

 イン側のゼブラゾーンにブラックマークを引いていく彼の姿を、いつまでも忘れない

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 すべての喜怒哀楽をはらんだ、人間と機械の究極のコラボレーション、MotoGP

 その新たな幕が、今また上がる
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*諸事情により、半年以上当ブログを放置しておりました。コメントいただいた方、閲覧していただきました方、皆様に深くお詫びいたします
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# by taros_magazine | 2013-04-05 22:02 | motorcycle diary
Tear Off  (MotoGP 2012 Round-7 Dutch TT)
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 バレンティーノ・ロッシがピットに入ってくる姿を見ても、自分は驚かなかった

 むしろタイヤを交換して再びレースに戻ったことの方が意外だった…

 伝統のアッセンで、彼は明らかに苦戦していた

 それはこの赤いマシンに乗って以降、常に悩まされてきた”セットアップ”というようなレベルではなく、さらに深刻で出口の見えない問題に見えた

 繰り返してきたフレームやスイングアームの改良、数え切れないほど試してみた足回りやハンドリングのセッティング…一縷の望みを繋いできた1000ccマシンも、乗ってみたらむしろそれまでよりも”ダメ”なマシンだった

c0041105_2334642.jpg タイトルはもちろん、勝利も…いや、表彰台すらすっかりおぼつかなくなってしまった"THE DOCTOR"が自分に言い聞かせてきた唯一のモチベーションだった”開発”…

 それすらも完全に瓦解し、ダッチウェザーにさえも見放されたこの日の彼にとっては、グリッドにつく理由は”契約”以外にはなかったのかもしれない

 そう思わせたのがレース前の彼の姿だった

 ピットではいつものようにコース図を手にレースシミュレーションをするわけでも、PCでデータを確認するわけでもなかった

 ロッシは集まったスタッフ、とりわけブリヂストンのエンジニアを前に厳しい表情でまくしたてているように見えた

 さらにグリッド上では、あきらめたような笑みをうかべるジェレミー・バージェスらスタッフと視線も合わさない
 さらに目の前のテレビカメラにさえしばらく気がつかず、ただ視線を下に落としていた

 いざレースが始まると、彼に幾分運がめぐってきたような展開となった

 アルバロ・バウティスタがポイントリーダーのホルヘ・ロレンゾを道連れにクラッシュし、目下のライバルのうちの一人であるステファン・ブラドルも早々にリタイアし、オープニングラップを終えるとなんと”望外”の5位につけていた

 しかし、それすらもこの日のロッシの闘争本能を呼び覚ますことはなかった

 ラップごとに1秒ずつ4位から離され、一度はコースアウトしたチームメイトにまであっさりとかわされ、そしてサテライトチームの同じマシンの攻撃に耐え切れなくなると、彼はそのままピットを目指した

 ゆっくりとピットに戻るロッシと対照的に見事な手際でタイヤ交換を行うチームを見たとき、あのレース前のピットでの出来事を理解した

 あの時、おそらくロッシはこう言っていたのだろう
 『このコンディションじゃ絶対にタイヤはもたない。もしそうなったらオレはピットに戻る』と…

 ソフトタイヤを履き、ふたたびコースに戻ると同時に、かつて彼が纏っていたカラーリングのマシンが2台、猛然と彼の横をかすめていった

 周回遅れとなったロッシがそのとき感じたのは、屈辱などではなく、あのマシンに対する憧憬だったのではないだろうか?

 ピットアウトしていくロッシが捨てたのは、ティアオフシールドだけでなくもっと大切なものだったのかもしれない…
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# by taros_magazine | 2012-07-02 23:36 | motorcycle diary