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" Bashing " (MotoGP 2011 Round-6 Great Britain)
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 今まさに、彼はこれまで築き上げてきた幾多の栄光を失おうとしている

 その圧倒的なヒューマン・パフォーマンスと愛すべきキャラクターで世界を虜にしてきた”グランプリの太陽”は、かすかな西日を放ちながら地平線の彼方へ落ちていこうとしている…

 走るたびにケーシー・ストーナーに3秒以上離され、決勝以外のすべてのセッションでストックのドゥカティに乗るプライベーター、カレル・アブラハムに遅れをとった

 12台しか完走しなかったその決勝レースで、彼はストーナーの遥か後方、1分遅れで青山博一、トニ・エリアスと死闘を繰り広げた

c0041105_10584644.jpg  かつてのチーム・メイトや自分の後釜のライダー、それに飛ぶ鳥を落とす勢いだった母国の後輩らの自滅に助けられ、いくつかポジションこそ上げたものの、表彰台を目指して奮闘する ”チーム・メイト” ニッキー・ヘイデンの30秒後方で ”ライバル” アブラハムをかわすのが精一杯だった…

 今、バレンティーノ・ロッシの身に起こっていることが、いったいどれほどの事なのかを知る術を誰も持たない

 これまで、人々はロッシ本人の発信する情報により、最初は右脚、そして肩の負傷へとその原因を求め、やがて未成熟なマシンへとすり替えてきた

 でも、何かが決定的に違っていた

 RC211V相手に手も足も出なかったM1でいきなり勝ってみせたロッシと

 初めてのブリジストンを、みるみる手なずけてみせたロッシと…

c0041105_119751.jpg それでも、彼が跨るマシンが赤くなければ、イタリアのファン達は今のような成績でも、あの2006年のムジェロのように"FORZA!"と言ってくれたかもしれない

 しかし、彼らは今まで何度も見てきたのだ 
 ストーナーがポディウムの一番高いところでシャンパンを開けるところを
 
 彼らは4年前の歓喜をいまだ鮮明に記憶しているのだ 
 イタリアンメイドのマシンが世界の頂点に立ったあの日のことを…

 去年8月…あの衝撃の記者会見以降、ティフォージたちはイタリア人が乗るイタリア製マシンが快走することを信じ、待ち続けてきた

 暗闇のカタール、雨のヘレスではただ見守った
 4位争いのエストリル、ついに表彰台を獲得したル・マンで、その期待はいよいよ現実味を帯びてきたハズだった

c0041105_1134370.jpg しかし得意のカタルニアで2大ワークスの後ろで淡々とレースを終えると、ついに火の手が上がった

 熱しやすく冷めやすいラテンの血は、いままでアンタッチャブルだった存在に公然と疑問符を突きつけた

 そんな状況の中、沸騰寸前の母国の不満に対し、このシルバーストーンで最悪の回答を示してしまったバレンティーノ・ロッシ…

 まるでタガが外れてしまったかのような激しいバッシングが吹き荒れる今、はたしてロッシは今まで何度も驚異的なライディングを見せたアッセンで、そしてドゥカティの地元中の地元ムジェロで、どんな言葉をもってファンに迎えられるのだろう?

 そして何より、ロッシ自身の胸中にあるものはいったい何なのか?

 わずかな希望の光に照らされた12年型のマシンを駆る自らの姿か、それとも赤いレザースーツではなく、赤い耐火繊維のレーシングスーツを着る姿なのか…

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by taros_magazine | 2011-06-17 10:58 | motorcycle diary
偽悪者 (MotoGP 2011 Round-5 Catalunya)
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 サッカーのディエゴ・マラドーナなら、あのスペインでのワールドカップのイングランド戦での”5人抜き”がある
 野球なら、”ミスター”長嶋茂雄が天覧試合という一世一代の見せ場で放ったサヨナラホームランだろう

 2輪のレースでも、傑出した速さを持つライダーなら決して忘れられることのないシーンというものがある

 それはホッケンハイムでのケビン・シュワンツのミラクルブレーキングやラグナセカでのバレンティーノ・ロッシのダート走行のように勝負を決めたシーンとは限らない
 アンダーストープで宙に舞ったウェイン・レイニーの姿、陽の落ちたホームストレートでウォールに立てかけられたTECH21…

 それらの記憶は、たとえリザルトシートには記載されなくとも、そのライダーの伝説をいっそう美しいものに飾り立てていくのである…
 
 この日、国際映像の主役は”ブービー”達のバトルだった

c0041105_15341441.jpg まるで4輪のF1のようにスタート直後から秩序だってチェッカーめざして走り続けるトップ6…
 レース終盤には、勝利めざして快走するストーナーにカメラが向けられることはほとんどなかった 

 ケーシー・ストーナーという卓越した速さを持つライダーが勝利することが”つまらない”と言われるようになって久しい

 それはホンダ時代のロッシのように『勝つことが当たり前』すぎてリザルトやレース展開に興味が持てない、というようなものではない

 タイトルを経験し、今シーズン無敵の強さを誇りながらも、これまで伝説や名シーンというものの主役を演じたことのないライダー…

 それが序盤からスルスルと前に出て後続をジワジワと引き離すや、そのまま大きなドラマを演出することなく淡々と速い周回を重ね、そのままフィニッシュする勝ち方…まさしくこの日のようなレーススタイルが”つまらない”のだと思ってきた
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 しかし、それがは大きな間違いだったに気づいた

 この日の彼はいつにも増して驚異的な走りをしていた
 
 誰よりも早いタイミングで、誰よりも大きくスロットルを開けていた
 誰よりもクイックにマシンを切り返し、誰よりも激しくリアをドリフトさせていた

 思い通りにならないデスモセディチで傑作マシンM1に乗るロッシを追いかけていた08、09シーズンのように、このカタルニアのダイナミックなコースを息が詰まりそうな限界の走りで攻めていた

 そんな魂のこもったライディングをしながらも、レース後に彼は”余裕の勝利”だと語ったのだ

 自分は騙されていたのだ
 誰よりも鋭い牙と爪を持ちながらも、”涼しい顔”で勝利をさらっていくケーシー・ストーナーというキャラクターに…
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 煮えたぎるような勝利への執着、あまりに貪欲なスピードに対する欲望…
 時にそれはライバルの地元での勝利という”空気の読めなさ”として、またある時はバトルすら不要なレースを量産してしまう

 彼の勝利が”つまらない”理由…それはストーナーの問題ではなく、彼のライバル達が彼以上に激しい走りをしていないからに他ならないのだ

 ”パーフェクトマシン”212Vのポテンシャルを100%引き出して走るストーナー以上に攻撃的な走りが期待できるライダー…それは、やはりマシンの性能を超えて120%で走ることのできるあのライダーしかいないのかもしれない

 そしてその時、ストーナーが真の主役になるとしたら、それはこれまで誰も見たことがないほどハイレベルで壮絶なシーンになるだろう
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by taros_magazine | 2011-06-12 15:36 | motorcycle diary