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"Love Story"(MotoGP 2010 Round-10 Czech)
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 それはホルヘ・ロレンゾが、マシンをタイヤバリアの上にまで飛ばしてしまうほどの派手なクラッシュを演じた直後の出来事だった

 ラストアタックに出ていたバレンティーノ・ロッシは、最終コーナー手前の左カーブでリアタイヤをスライドさせると、そのままあっけなくスリップダウンを喫してしまったのだ

c0041105_1624556.jpg しかし、本当に驚かされたのはその後のシーンだった

 ライダー、マシンとも大きなダメージがなさそうなことに多くのファンが安堵した次に瞬間、立ち上がったロッシは右手を悔しそうに振り下ろしたのだ

 1回、2回、3回、4回…そして今度は両手で拳を握り締めて膝を叩いた

 おそらくグランプリでロッシが初めて見せたであろう激しい負の感情表現…それは、この1戦にロッシが賭けていたモノの大きさを表していた

 明日のレース後にリリースされる予定の『来シーズンに関するメッセージ』…

 そこでロッシが本当に伝えたかったのは、すでにドゥカティサイドから漏れ伝わっていた移籍そのものではなく、この7年間それまで決して味わうことのなかった挫折や苦難、そして栄光の瞬間を共にしてきたYZR-M1への想い…
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 そのM1に別れを告げる週末だからこそ、最高の走りでメッセージを伝えたかったのに、ロッシは転倒の瞬間右脚をかばってしまった
 
 怪我の程度を考えれば、それはむしろ当然のアクションだった
 低速の14コーナーで、加重していた右脚にスライドが伝わってきた瞬間、彼は本能的に右脚をステップから外し両手をハンドルから離して、マシンをアウト側へ送り出した

 そのときロッシが見たものは、ゆっくりと回転しながらグラベルに突っ込んでいく”彼女”の姿だった
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 その瞬間、激しい後悔の念が押し寄せた

 完全にこらえられたはずのスライドだった
 あの程度なら、リハビリ中の右脚でもコントロールできたはずだった
 なのに…

 両拳で膝を叩いた後に一度立ち止まり、そして最後に右手の拳で太腿を思いっきり叩いた。骨折した右脚の…
 
 決勝では、リベンジを誓ったはずのロッシに今度は”彼女”が応えてはくれなかった
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 スタートで出遅れたロッシとM1は、最後までペースを上げることができずに優勝どころか表彰台争いにも絡めずにレースを終えた…

 そしてレース後、世界中が注目していたロッシからのメッセージがリリースされた

 何度も何度も書き直した跡があるその手書きのメッセージは、ドゥカティという単語が一度も出てこないかわりに、”彼女”という言葉で埋め尽くされていた

 2004年のウェルコムの草の上で始まった美しいラブ・ストーリーは、ロッシのメッセージを待つまでもなく、前日このブルノのグラベルの上で終わりを告げていたのであった…
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by taros_magazine | 2010-08-21 16:08 | motorcycle diary
"Determination" (MotoGP 2010 Round-9 United States)
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 今シーズン、激しい攻めの走りを見せ続けているダニ・ペドロサは、このレースにこれまで以上に期するものがあった

 昨年、ロッシの猛追をかわし勝利した得意のサーキットだからこそ、そして前戦ドイツで会心の勝利を得た後だからこそ、さらに高いレベルでの走りで強さを見せつけなければ…

 しかし、その思いはレース半ばの5コーナーで乾いたグラベルに叩きつけられ潰えてしまった

 クラッシュパッドまで飛んでいったマシンを一瞥しただけで、ゆっくりとコース外へ出て行くペドロサの姿からは、ただただ完璧な勝利を求めてこのレースに臨んでいた彼の覚悟が滲み出ていた

 タイヤを、時にクラッシュさえも厭わずにこだわってきた攻めの走りの理由、それは…

c0041105_1047586.jpg バトルになれば、バレンティーノ・ロッシには何度も子ども扱いされた
 
 かつての同門、ケーシー・ストーナーにタイトル獲得では先を越された
 
 そして今、同国のライバル、ホルヘ・ロレンゾがタイトル獲得に向かって突き進んでいる

 4強と言われながらも、何か取り残されてしまったような焦燥感に加え、HRCが決断した来シーズンの”新エース”の招聘という現実がペドロサに追い討ちをかけた

 これまで信じてきた己の才能と、師匠アルベルト・プーチの教え…
 しかし、それだけでは乗り越えられない高い壁を目の当たりにした時、彼はついに自らに決定的に足りないものに気づく

 ”レーシング・エリート”として歩んできたペドロサが、彼ら3人を超えるために選んだ手段、それが結果を恐れない”捨て身”の攻めの走りだったのではないだろうか?

c0041105_10454865.jpg 完走さえすればポイントを獲得できることが明らかな状況の中、再スタートの素振りさえ見せなかったダニ・ペドロサ…

 彼は、おそらくこの日のリザルトを後悔していないどころか、むしろこれからもこうして攻め続けていく決意を固めたことだろう

 彼が頂点に立つ、その瞬間まで…
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by taros_magazine | 2010-08-15 10:51 | motorcycle diary
"4 Challengers" (MotoGP 2010 Round-8 GERMANY)
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 その直後、国際映像に映し出されたアルベルト・プーチの表情がすべてを物語っていた

 いつものように厳しい表情ではあるものの、その眼差しには明らかな動揺がうかがえた…

 もはや手がつけられないほど圧倒的な速さを見せ続けているホルヘ・ロレンゾに対し、ミリ単位のテール・トゥ・ノーズで最終コーナーを抜けると、ストレートでマシンを接触寸前まで真横に寄せ威嚇しながら前に出て、そのまま信じられないほどのレイトブレーキで1コーナーへ飛び込んでいったダニ・ペドロサ…

 明らかに彼の”芸風”でない激しい競り合いでロレンゾを追い詰め、そして抜き去ったペドロサの走りは、おそらくプーチが考える”レース”というものの定義から大きく逸脱したものだったのだろう

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 そのままなす術なくジワジワと引き離されていったロレンゾもまた、彼の本来の姿ではなかった

 いつもの傲慢な速さはすっかりと影を潜め、ギクシャクとした小さなライディングで2位に甘んじる彼の姿…

 それは、このパーシャルレンジの多いストレスの溜まるサーキットのせいだけでなく、どこまで本来の速さを取り戻しているのかわからない、背後にいるはずのバレンティーノ・ロッシの影に神経をすり減らしているようだった

 そしてもう一人、いつもと違う心理状態でレースに臨んでいるライダーがいた

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 バレンティーノ・ロッシは、その長いキャリアの中でもおそらく数回しか経験したことのない感覚でこのザクセンのレースを走り始めただろう

 『たぶん…勝てないだろう』

 マックス・ビアッジやセテ・ジベルノーがライバルだった頃とは比較にならないほど勝つことが難しい今、このフィジカル・コンディションで表彰台の頂点に立つことがいかに厳しいか…それはロッシ自身も十分に自覚していただろう

 そんなときロッシがどういう走りを見せるのか?

c0041105_1030737.jpg しかしロッシはあくまでもロッシだった

 前にいるライダーを一人でも多く抜き去る、コンマ1秒でも削れるものは削り、可能な限り速く…

 タイトルやポイントという”邪念”から解き放たれたロッシは、かつてのような純粋にレースを、そしてバトルを楽しむ”チャレンジャー”の姿を取り戻した
 
 さらに最終ラップにはケーシー・ストーナーの手荒い”復帰祝い”もあり、結果的にはこのレースを最高のリハビリとして終えることとなった

 切れ味を増したペドロサ、コンディションを取り戻したストーナー、そしてランキングトップに君臨するロレンゾ…

 これまで常にロッシという王者に対し”挑んできた”この3人は、この日から”最強の挑戦者”と化したディフェンディング・チャンピオンの追撃を受けることになった

 それを、ロッシの本当の凄さを身をもって知るという”至福の瞬間”であると思えるライダーこそが、ロッシの時代を終わらせることができる”真の王者”になるだろう
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by taros_magazine | 2010-08-14 10:26 | motorcycle diary
"Delight" (MotoGP 2010 Round-7 CATALUNYA)
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 トップでチェッカーを受けたロレンゾのウィリーからは、不思議と”歓喜”の感情が伝わってこなかった

 わずか2ヶ月前のヘレス、あの母国グランプリでの初めての勝利に溢れる想いを抑えきれず、コースサイドで、ポディウムで喜びを爆発させていた彼…

 しかし、このカタルニアでロレンゾが見せた、何かを路面に叩きつけるように、ラフにスロットルを開け腕力でフロントを持ち上げるような暴力的なゴールシーン

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 それは、もう20年以上前に見たあるレースのフィニッシュのシーンを彷彿とさせた

 AMAでも、グランプリでも、常に”エース”として自分の前を走っていたエディ・ローソンとの、遂に実現した最高峰の舞台での真っ向勝負…

 89年のホッケンハイム…最終ラップの最終コーナーまでもつれたレースを、ウェイン・レイニーは持てる技術、戦略、そして執念にも似た強靭な精神力を、彼のポリシーである”120%”発揮して勝利をもぎ取った

c0041105_12224562.jpg そのレイニーがフィニッシュラインを通過する時に見せたガッツポーズは一種異様なものだった

 拳を堅く握り締めた左手を、何度も何度も激しく前方に突き出すように振りながらストレートを走り去る…

 その姿は、同年あの伝説の鈴鹿でのフィニッシュ直後、ラップタイムカウンターを読み違えたことに気付いた後の激しい”怒り”の意思表示にも似たアクションだった

 あのときのレイニーと、この日のロレンゾ…2人が見せた不思議な感情表現
 その根底にあるもの、それは…

 レイニーのガッツポーズ…それは、エディ・ローソンというたった一人の人間を倒すために、何故これほどまでの長い時間を要してしまったのか、という自分自身に対する”怒り”と、遂にそれを成し遂げたという”達成感”という相反する2つの感情を、精神が整理できぬまま身体が表現してしまったもののように思えた

 そしてロレンゾのウィリー
 それは、この1年片時も忘れることのできなかった去年のここでの屈辱…そのリベンジのためにすべてを捧げてトレーニングとテストを重ねてきたというのに、その倒すべき相手であるバレンティーノ・ロッシがここにはいないという”怒り”と、もうロッシが戻ってきても絶対に負けないという確信が持てるほどにパーフェクトなレースをしたという”達成感”が醸し出したものだったのだろう

c0041105_101534.jpg 1年前、ほんのわずかな隙をロッシに突かれた最終コーナーを臨むところに自らの王国の国旗を掲げたロレンゾ…

 ロッシを倒し、掛け値なしの歓喜のウィリーを見せる時…
 
 それは、彼の王国が”世界制覇”を成し遂げる時だろう
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by taros_magazine | 2010-08-13 09:55 | motorcycle diary