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"GALLINA VECCHIA" (MotoGP 2009 Round-16 MALAYSIAN GP)

 バレンティーノ・ロッシの9度目の戴冠を見ながら、ふと思った

 『長野オリンピックの金メダリストで、この冬のバンクーバーでも表彰台の頂点に立つ選手がいるのだろうか?』と…

c0041105_21393017.jpg 彼が初めて世界タイトルを獲得したのは1997年、あの冬の祭典の前年のことだ
 さらに彼がGPデビューしたのは、日本サッカーが”マイアミの奇跡”を起こしたあのアトランタ五輪が開催された96年なのである

 当時、頂点を極めたアスリート達の多くが、すでにそのフィールドを去る、あるいは後進に道を譲っているであろう14年という膨大な時間の流れ…
 
 しかし、その間ロッシは次々と現れるライバル達を真っ向から受け止め、そして跳ね返し今なお王者として君臨している

 彼が打ち立ててきたどんな記録よりも遥かに驚異的な、この長期間にわたるモチベーション
 この間、彼を突き動かしてきたエネルギーはいったい何なのか…そう考えたとき、ロッシがそれまでに見せたことのない姿を晒したシーンを思い出した

c0041105_2140466.jpg 2006年フランス、ル・マン
 開幕戦での思いもよらぬ転倒で出鼻をくじかれ、その後も度重なる不運に見舞われタイトル争いで苦境に立たされていた彼だったが、このレースでは久々の快走を見せていた

 脅威のニューカマー、ダニ・ペドロサにその力の差を見せつけ、そのままチェッカーに向けてスパートしようとしていたその時、またもや息絶えた彼のM1…

 マシンを降りた太陽王ロッシは、一度も前を見ることなく最後まで視線を足元に落としたままマーシャルカーに乗り込み、頭を抱えた…

 それまでも無言でピットから去っていったこともあった
 うつむきながらチームクルーの運転するモペッドに乗って帰ってきたこともあった

 しかし、薄暗いマーシャルカーの中で頭を抱えるロッシの姿はあまりにも衝撃的だった…

 もしかしたらあの時、彼は”引退”を考えていたのではないだろうか?

 それまで何よりも大好きだったレースが、あふれんばかりの幸福と誇りをもたらしてくれたグランプリが、あの時の彼にとっては苦痛に満ちた残酷なショーにしか思えなくなってしまったのではないだろうか…

 そして、もし次のレースも同じような結果だったら…

c0041105_21412711.jpg そのレースはイタリアGPだった

 ランキング下位に低迷するロッシに対し、母国のファンは驚くべき反応で出迎えた

 モーターホームから出てきた彼の前にあったのは、いつものように黄色い歓声と満面の笑顔であふれる”花道”などではなかった
 ある者はあらんばかりの声を振り絞り拳を突き上げ、ある者は泣きそうな表情で力いっぱいの拍手を送り続けていた

 それはいつも華やかなパドックでは一種異様な光景ではあったが、同時に見たことがないほど感動的な”凱旋”だった

 そんなムジェロのファンは彼が失いかけていた情熱を呼び覚まし、グランプリの神は彼に完璧な勝利をプレゼントした

 そしてロッシは二度とあのような姿を見せることはなくなった

 初日のフリー走行で大クラッシュし2箇所を骨折したその年のアッセンでは、8位フィニッシュのレース後にさわやかな笑顔を見せてくれた

 5年間守り続けた王座から陥落した最終戦バレンシアのチェッカー後には、みずからニッキー・ヘイデンに駆け寄り、祝福の握手を差し伸べた
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 あの傷心のルマン、そしてその後のムジェロの熱狂…あの時、あの年、ロッシは確かに悟った

 自分にとって、ファンにとって、そしてモーターサイクルレースにとって、バレンティーノ・ロッシというライダーの走る意味を…

 今も彼が心の中で燃やし続けているそのエネルギーの源が何であるかが語られるのは、その全てを使い果たし、”これで引退”という最後のモチベーションを使うようになる時だろう

 ただ今は、”老いた鶏”が生み続ける卵をもう少し味わっていたいと思う
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by taros_magazine | 2009-10-29 21:49 | motorcycle diary
"pay back" (MotoGP 2009 Round-15 AUSTRALIAN GP)
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 ホルヘ・ロレンゾのクラッシュ、そしてリタイヤを確認したバレンティーノ・ロッシには、この日その決して短くないキャリアの中でも最高と言えるほどパーフェクトな走りを見せるケーシー・ストーナーを追いかける理由などないように思えた

 何度となくその後遺症に心身を蝕まれてきた2006年のエストリルほど切迫した状況でもなければ、『2位は悪くないリザルト』と自らに言い聞かせるように何度も口にした昨シーズン序盤のように先が見えない時期でもない

 チャンピオンシップポイントで”1レース差”にまで追いすがってきた最大にして唯一のライバルである”壁の向こうのチームメイト”から、レース開始直後に贈られた”マジック1”という思いがけないプレゼント…
 後はただ、今シーズン何度も見せてきたように自らの走りに集中し、そしてチェッカーを受けることが最良の選択であることは誰の目にも明らかだった

 しかし、ロッシはストーナーに対し本気で牙を剥いた
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 ミリ単位でも間違えば飛んでいってしまいそうなリアタイヤを完璧にコントロールし、200マイルからのブレーキングポイントをラップごとに奥へ奥へと刻んでいった

 それでも、完璧なマシンとライディング、そして母国の偉大なるレジェンド達と熱狂的なファンに後押しされたストーナーの前に出ることはかなわない…
 ロッシが”予想通り”の走りに切り替えたのは、ファイナルラップに入ってからだった

 レース後には、いつもの”ハッピーマン”に戻っていたように見えたロッシの、レース中の異常なまでの獰猛さは何だったのか…

 その理由の一旦を垣間見せたのが、シャンパンファイトの後のパフォーマンスだったのではないだろうか

 ニーパッドを剥ぎ取り、眼下に押し寄せたファン達を煽りながらその中に投げ入れる姿…それは、あたかもイタリアで勝った時のようだった

 そしてパルクフェルメやインタビューで、笑顔の中に一瞬見せた鋭い眼光…

 そう、ロッシはストーナーに”貸し”があったのだ
 タイトルを奪還し、さらに連覇を目前にしながらも、絶対に取り返さなければならない大きな大きな貸しが…
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 半年前の彼のホームタウンGP、雨のムジェロ…
 そのロッシのために集まったティフォージ達に降り注がれたストーナーのシャンパン…
 
 これを償わせる方法はただ1つ、それはこの南半球の美しいサーキットで、イタリア国旗を高々と掲げ、その国歌を高らかに響かせること、そして故国の英雄の活躍を目の当たりにせんと集まった大観衆に、シャンペンシャワーを浴びせること…

 この日ロッシが、昨年のラグナセカや今年のカタルニアのような”カミカゼ”オーバーテイクを見せなかったのは、ストーナーがタイトル争いに絡んでいないから、という理由だけではないだろう
 
 脇役に甘んじてしまったイタリアの屈辱を晴らし、このオーストラリアでポディウムでの”主役”を演じるためには、ライバルのファン達をも納得させるような美しい勝利でなければ意味がないのだ

 そして何より、ストーナーとのバトルがこれで終わるわけではない
 この日あらためて感じたケーシー・ストーナーというライダーの凄さと、その素晴らしいライダーに”貸し”があり、それを取り戻す機会があるという”幸福”…

 ロッシの瞳には、2010年のフィリップアイランドのチェッカーの向こうに輝く碧い海が映っているようだった
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by taros_magazine | 2009-10-23 21:57 | motorcycle diary
"pure red" (MotoGP 2009 Round-14 PORTUGUESE GP)
 
c0041105_16512732.jpg 初めてバイクに乗った時の楽しさ
 初めてレースを走った時の興奮
 そして初めてグランプリで戦った時の喜び…

 電子制御の塊と言われるドカティのマシンを市販のスポーツバイクのように自由自在に振り回すケーシー・ストーナーの走りからは、そんな抑えきれない感情があふれんばかりに伝わってきた

 勝つほどに無口になっていった一昨年
 バトルを演じるごとに険しい表情になっていった昨年
 そして今シーズン、ついに悲鳴を上げた彼の肉体…
 それは”原因不明の奇病"のせいなどではなかったのだと今はっきりと分かった

 最速のマシンを得てバレンティーノ・ロッシに挑み、そして掴み取った栄冠…
 しかしその肉体を、そのハートを駆け巡っていた彼の熱き血潮は、勝てるライダーであること、そして王者であることという”呪縛”により、その流れを妨げられてしまっていった

 チャンピオンを獲得した2007年の、あのバランスの取れた華麗なライディングからは想像もできなかったほど激しい走りを見せ続けていた今シーズン…
 それは、冷えていく己の細胞に熱を取り戻そうと、必死で自らにムチを入れていた悲愴な走りだったのだろう

 そして遂に訪れた精神、肉体の限界…
 その時、彼と彼の仲間達が下した”休養”という決断は間違っていなかった

 パドックから遠くはなれ、チャンピオンシップという戦場から開放された彼は一人のバイク好きに戻った
 故郷で、旅先で、何気ない日常生活を過ごす中でゆっくりと”呪縛”から解き放たれていった彼の心と体に、やがてゆっくりと真っ赤な血が満たされていった

 エストリルにやってきたストーナーは、これまでに見せたことがないような笑顔でピットにいた
 テレビカメラに向かって手を振り、レースでは2位フィニッシュにガッツポーズを見せ、表彰台ではこれまで苦痛でしかなかった”疲労感”に心地よさを感じているかのように笑顔を絶やさなかった

 このレースを通じ、ストーナーはひとつの真実を私達に見せてくれた

 それは、ライダーが輝きを見せるために本当に必要なのは、勝利でもタイトルでもなく、レースが、そしてバイクに乗ることが本当に大好きだという、その純粋な気持ちなのだと…
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by taros_magazine | 2009-10-11 16:53 | motorcycle diary