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"in memories of …"(MotoGP 2010 Round-12 SAM MARINO)

「おとうさん、とみざわ君だいじょうぶなの?」

「どうかな・・・大丈夫だといいね・・・」

「きゅうきゅう車きたかなぁ?」

「たぶん、もう乗ってると思うよ。中で先生が『大丈夫ですか?』って診てるよ」

「痛いのかなぁ?」

「痛いかもしれないけど、がまんしてるよ、きっと」

「だいじょうぶかなぁ?」

「・・・」

「なんか、しんぱいになってきちゃった」

「・・・」

「きっと大丈夫だよ。もう遅いから、先に寝てて。おとうさんすぐに行くから・・・」


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 でも、状況が良くないことはドルナの経過発表を待つまでまでもなく明らかだった

 コスタ医師が診て、命に別状がなければすぐにテロップが入るだろう時間になっても、Moto2のレースが終わっても、その朗報はもたらされなかった

 チーム…加藤大治郎が最後に所属した…の地元で勝ったトニ・エリアスの沈痛な表情は、疲労感が原因でないことは明らかだった

 MotoGPの決勝レースが周回を重ねていっても、病院へ搬送された以後の情報は入らなかった

 それは、最悪の結果がチェッカーを待って知らされるであろうことを暗示していた

 残酷なカウントダウンとなったMotoGPの最後の数ラップ…そして…

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c0041105_0524549.jpg娘はもう寝ていた

『とみざわ君、ダメだったよ…』



 でも、これだけはわかってほしい

 オートバイの競争は、いっしょうけんめい練習して、いっぱい頑張って、運転がものすごく上手になった人たちがやっているんだ

 その人たちは「死んでもいい」とか「ぶつかってもいい」なんて考えてないんだ

 ほかの選手たちとはかぞくのように仲が良くて、いつもはみんなえがおでお話してるんだ

 だけどものすごく速いスピードで走るから、ときどきころんじゃうこともあるし、けがをしちゃうこともある

 だからそうならないように、選手も、コースで働いている人たちも、みんないろいろ考えて頑張っているんだ

 おとうさんもこういうふうにころんで病院に行ったこともあるし、ずーっと前にはころんで死んじゃったお友だちもいる

 でも、オートバイに乗っていろんなとこへ行ったり、ほかの人と競争したりするのはほんとうはとても楽しいんだ

 きれいな景色を見て、風をからだで感じて、友だちみんなで笑ったり、喜んだり…

 でも、それでも悲しいけど死んじゃう人もいるんだ

 それは死んじゃった人が悪いんじゃないんだ

 ぶつかった人も悪くない

 誰も悪くないんだ

 だから、そういうときにはこう言うしかないんだ

『とみざわ君、ありがとう。ほんとにカッコよかったよ。ずっと忘れないよ』って





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富沢祥也選手のご冥福を心よりお祈り申し上げます
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by taros_magazine | 2010-09-07 00:59 | motorcycle diary
"Love Story"(MotoGP 2010 Round-10 Czech)
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 それはホルヘ・ロレンゾが、マシンをタイヤバリアの上にまで飛ばしてしまうほどの派手なクラッシュを演じた直後の出来事だった

 ラストアタックに出ていたバレンティーノ・ロッシは、最終コーナー手前の左カーブでリアタイヤをスライドさせると、そのままあっけなくスリップダウンを喫してしまったのだ

c0041105_1624556.jpg しかし、本当に驚かされたのはその後のシーンだった

 ライダー、マシンとも大きなダメージがなさそうなことに多くのファンが安堵した次に瞬間、立ち上がったロッシは右手を悔しそうに振り下ろしたのだ

 1回、2回、3回、4回…そして今度は両手で拳を握り締めて膝を叩いた

 おそらくグランプリでロッシが初めて見せたであろう激しい負の感情表現…それは、この1戦にロッシが賭けていたモノの大きさを表していた

 明日のレース後にリリースされる予定の『来シーズンに関するメッセージ』…

 そこでロッシが本当に伝えたかったのは、すでにドゥカティサイドから漏れ伝わっていた移籍そのものではなく、この7年間それまで決して味わうことのなかった挫折や苦難、そして栄光の瞬間を共にしてきたYZR-M1への想い…
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 そのM1に別れを告げる週末だからこそ、最高の走りでメッセージを伝えたかったのに、ロッシは転倒の瞬間右脚をかばってしまった
 
 怪我の程度を考えれば、それはむしろ当然のアクションだった
 低速の14コーナーで、加重していた右脚にスライドが伝わってきた瞬間、彼は本能的に右脚をステップから外し両手をハンドルから離して、マシンをアウト側へ送り出した

 そのときロッシが見たものは、ゆっくりと回転しながらグラベルに突っ込んでいく”彼女”の姿だった
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 その瞬間、激しい後悔の念が押し寄せた

 完全にこらえられたはずのスライドだった
 あの程度なら、リハビリ中の右脚でもコントロールできたはずだった
 なのに…

 両拳で膝を叩いた後に一度立ち止まり、そして最後に右手の拳で太腿を思いっきり叩いた。骨折した右脚の…
 
 決勝では、リベンジを誓ったはずのロッシに今度は”彼女”が応えてはくれなかった
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 スタートで出遅れたロッシとM1は、最後までペースを上げることができずに優勝どころか表彰台争いにも絡めずにレースを終えた…

 そしてレース後、世界中が注目していたロッシからのメッセージがリリースされた

 何度も何度も書き直した跡があるその手書きのメッセージは、ドゥカティという単語が一度も出てこないかわりに、”彼女”という言葉で埋め尽くされていた

 2004年のウェルコムの草の上で始まった美しいラブ・ストーリーは、ロッシのメッセージを待つまでもなく、前日このブルノのグラベルの上で終わりを告げていたのであった…
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by taros_magazine | 2010-08-21 16:08 | motorcycle diary
"Determination" (MotoGP 2010 Round-9 United States)
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 今シーズン、激しい攻めの走りを見せ続けているダニ・ペドロサは、このレースにこれまで以上に期するものがあった

 昨年、ロッシの猛追をかわし勝利した得意のサーキットだからこそ、そして前戦ドイツで会心の勝利を得た後だからこそ、さらに高いレベルでの走りで強さを見せつけなければ…

 しかし、その思いはレース半ばの5コーナーで乾いたグラベルに叩きつけられ潰えてしまった

 クラッシュパッドまで飛んでいったマシンを一瞥しただけで、ゆっくりとコース外へ出て行くペドロサの姿からは、ただただ完璧な勝利を求めてこのレースに臨んでいた彼の覚悟が滲み出ていた

 タイヤを、時にクラッシュさえも厭わずにこだわってきた攻めの走りの理由、それは…

c0041105_1047586.jpg バトルになれば、バレンティーノ・ロッシには何度も子ども扱いされた
 
 かつての同門、ケーシー・ストーナーにタイトル獲得では先を越された
 
 そして今、同国のライバル、ホルヘ・ロレンゾがタイトル獲得に向かって突き進んでいる

 4強と言われながらも、何か取り残されてしまったような焦燥感に加え、HRCが決断した来シーズンの”新エース”の招聘という現実がペドロサに追い討ちをかけた

 これまで信じてきた己の才能と、師匠アルベルト・プーチの教え…
 しかし、それだけでは乗り越えられない高い壁を目の当たりにした時、彼はついに自らに決定的に足りないものに気づく

 ”レーシング・エリート”として歩んできたペドロサが、彼ら3人を超えるために選んだ手段、それが結果を恐れない”捨て身”の攻めの走りだったのではないだろうか?

c0041105_10454865.jpg 完走さえすればポイントを獲得できることが明らかな状況の中、再スタートの素振りさえ見せなかったダニ・ペドロサ…

 彼は、おそらくこの日のリザルトを後悔していないどころか、むしろこれからもこうして攻め続けていく決意を固めたことだろう

 彼が頂点に立つ、その瞬間まで…
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by taros_magazine | 2010-08-15 10:51 | motorcycle diary
"4 Challengers" (MotoGP 2010 Round-8 GERMANY)
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 その直後、国際映像に映し出されたアルベルト・プーチの表情がすべてを物語っていた

 いつものように厳しい表情ではあるものの、その眼差しには明らかな動揺がうかがえた…

 もはや手がつけられないほど圧倒的な速さを見せ続けているホルヘ・ロレンゾに対し、ミリ単位のテール・トゥ・ノーズで最終コーナーを抜けると、ストレートでマシンを接触寸前まで真横に寄せ威嚇しながら前に出て、そのまま信じられないほどのレイトブレーキで1コーナーへ飛び込んでいったダニ・ペドロサ…

 明らかに彼の”芸風”でない激しい競り合いでロレンゾを追い詰め、そして抜き去ったペドロサの走りは、おそらくプーチが考える”レース”というものの定義から大きく逸脱したものだったのだろう

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 そのままなす術なくジワジワと引き離されていったロレンゾもまた、彼の本来の姿ではなかった

 いつもの傲慢な速さはすっかりと影を潜め、ギクシャクとした小さなライディングで2位に甘んじる彼の姿…

 それは、このパーシャルレンジの多いストレスの溜まるサーキットのせいだけでなく、どこまで本来の速さを取り戻しているのかわからない、背後にいるはずのバレンティーノ・ロッシの影に神経をすり減らしているようだった

 そしてもう一人、いつもと違う心理状態でレースに臨んでいるライダーがいた

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 バレンティーノ・ロッシは、その長いキャリアの中でもおそらく数回しか経験したことのない感覚でこのザクセンのレースを走り始めただろう

 『たぶん…勝てないだろう』

 マックス・ビアッジやセテ・ジベルノーがライバルだった頃とは比較にならないほど勝つことが難しい今、このフィジカル・コンディションで表彰台の頂点に立つことがいかに厳しいか…それはロッシ自身も十分に自覚していただろう

 そんなときロッシがどういう走りを見せるのか?

c0041105_1030737.jpg しかしロッシはあくまでもロッシだった

 前にいるライダーを一人でも多く抜き去る、コンマ1秒でも削れるものは削り、可能な限り速く…

 タイトルやポイントという”邪念”から解き放たれたロッシは、かつてのような純粋にレースを、そしてバトルを楽しむ”チャレンジャー”の姿を取り戻した
 
 さらに最終ラップにはケーシー・ストーナーの手荒い”復帰祝い”もあり、結果的にはこのレースを最高のリハビリとして終えることとなった

 切れ味を増したペドロサ、コンディションを取り戻したストーナー、そしてランキングトップに君臨するロレンゾ…

 これまで常にロッシという王者に対し”挑んできた”この3人は、この日から”最強の挑戦者”と化したディフェンディング・チャンピオンの追撃を受けることになった

 それを、ロッシの本当の凄さを身をもって知るという”至福の瞬間”であると思えるライダーこそが、ロッシの時代を終わらせることができる”真の王者”になるだろう
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by taros_magazine | 2010-08-14 10:26 | motorcycle diary
"Delight" (MotoGP 2010 Round-7 CATALUNYA)
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 トップでチェッカーを受けたロレンゾのウィリーからは、不思議と”歓喜”の感情が伝わってこなかった

 わずか2ヶ月前のヘレス、あの母国グランプリでの初めての勝利に溢れる想いを抑えきれず、コースサイドで、ポディウムで喜びを爆発させていた彼…

 しかし、このカタルニアでロレンゾが見せた、何かを路面に叩きつけるように、ラフにスロットルを開け腕力でフロントを持ち上げるような暴力的なゴールシーン

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 それは、もう20年以上前に見たあるレースのフィニッシュのシーンを彷彿とさせた

 AMAでも、グランプリでも、常に”エース”として自分の前を走っていたエディ・ローソンとの、遂に実現した最高峰の舞台での真っ向勝負…

 89年のホッケンハイム…最終ラップの最終コーナーまでもつれたレースを、ウェイン・レイニーは持てる技術、戦略、そして執念にも似た強靭な精神力を、彼のポリシーである”120%”発揮して勝利をもぎ取った

c0041105_12224562.jpg そのレイニーがフィニッシュラインを通過する時に見せたガッツポーズは一種異様なものだった

 拳を堅く握り締めた左手を、何度も何度も激しく前方に突き出すように振りながらストレートを走り去る…

 その姿は、同年あの伝説の鈴鹿でのフィニッシュ直後、ラップタイムカウンターを読み違えたことに気付いた後の激しい”怒り”の意思表示にも似たアクションだった

 あのときのレイニーと、この日のロレンゾ…2人が見せた不思議な感情表現
 その根底にあるもの、それは…

 レイニーのガッツポーズ…それは、エディ・ローソンというたった一人の人間を倒すために、何故これほどまでの長い時間を要してしまったのか、という自分自身に対する”怒り”と、遂にそれを成し遂げたという”達成感”という相反する2つの感情を、精神が整理できぬまま身体が表現してしまったもののように思えた

 そしてロレンゾのウィリー
 それは、この1年片時も忘れることのできなかった去年のここでの屈辱…そのリベンジのためにすべてを捧げてトレーニングとテストを重ねてきたというのに、その倒すべき相手であるバレンティーノ・ロッシがここにはいないという”怒り”と、もうロッシが戻ってきても絶対に負けないという確信が持てるほどにパーフェクトなレースをしたという”達成感”が醸し出したものだったのだろう

c0041105_101534.jpg 1年前、ほんのわずかな隙をロッシに突かれた最終コーナーを臨むところに自らの王国の国旗を掲げたロレンゾ…

 ロッシを倒し、掛け値なしの歓喜のウィリーを見せる時…
 
 それは、彼の王国が”世界制覇”を成し遂げる時だろう
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by taros_magazine | 2010-08-13 09:55 | motorcycle diary
"without him (part 3)" (MotoGP 2010 Round-6 Dutch TT)
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 一瞬、グランプリは本来の秩序を取り戻したかに見えた

 先頭を走るホルヘ・ロレンゾ、熱い走りで追いすがるダニ・ペドロサ、様子を伺う復調したケーシー・ストーナー…

 ”4強”からバレンティーノ・ロッシをマイナスすれば、この3人がトップを激しく争うのが、当然あるべきグランプリの姿のはずであり、その頂点のバトルこそがグランプリの魅力なのだから…

 しかしラップを重ねるごとにその”理想形”は徐々に崩壊し、一人のライダーが掲げる新しい秩序の下にその姿を変質させていった

 見た目こそ接近戦を演じてはいても、その全ラップはパーフェクトにホルヘ・ロレンゾただ一人に支配されていた

 フィニッシュラインこそ2位との差は3秒を切っていても、すべてのラップをロレンゾが奪っていた
 ファステストラップこそソフトコンパウンドのペドロサに譲ったものの、その差はコンマ1秒でしかなかった

 むしろそんな記録よりも、当のライバル達の反応がすべてを物語っていた

 レース中はもちろん、レース後のコメントすらも”無抵抗”に、この新しい秩序を受け入れてしまったかのようなペドロサとストーナー…

 そのシーズン折り返し前にしては、あまりにもドライで現実的な対応…
 彼らはこの日、若きスペイン人の王者の誕生を誰よりも間近に肌で感じたのだろう

 しかし、この事実上のタイトル決定戦となったレースを終えてなお、激しく闘志を燃やし続けているライダーが2人いる

 そのプライドにかけて、新チャンピオンを叩きのめすべく爪を研いでいる王者ロッシと、そのロッシを倒すために、彼のいないレースを勝ち続け、そして彼の完全復帰を待ち望んでいるロレンゾ…

 このアッセンの地で、ひとつの争いが終止符を打ち、そしてさらに激しい戦いの始まりを告げる鐘が鳴った
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by taros_magazine | 2010-07-05 15:25 | motorcycle diary
"without him (part 2)" (MotoGP 2010 Round-5 Great Britain)

 誰も彼についていけない
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 予選から波に乗るランディ・ド・ピュニエも、本来のキレを取り戻したベン・スピーズも、そして前戦ではぶっちぎって勝ったダニ・ペドロサも…誰一人としてホルヘ・ロレンゾの影さえ踏むことができない

 250cc時代の圧倒的な強さを彷彿とさせるようなハイペース…しかしあの頃のように2位以下を挑発するかのような”傲慢”なレースコントロールはそこにはなかった…

c0041105_15192098.jpg まるでピットサインさえ見ていないのでは?と思えるほど自分の走りに集中し、電波時計のように正確にラップを刻み続ける姿は、彼が”レース”をしている相手が8秒後方で肉弾戦を繰り広げているアンドレア・ドヴィツィオーゾやニッキー・へイデン達ではないことをはっきりと物語っていた…

 レース前、いつもなら余裕さえ感じさせる振る舞いを見せる”定位置”のポールポジションのグリッドでも、ロレンゾはこれまで見せたことがないような張り詰めた雰囲気を醸し出していた
 自身のツイッターのPRボードも、そして彼へのメッセージを掲げることもなかった

 そして完璧なレースでチェッカーを受けた後の派手なウィリーとパフォーマンス、さらにはチームとブリジストンに感謝を述べながらも、病室のチームメイトには言及しなかった

 そう、この日ロレンゾは、わずか2週間前にあれほどの動揺を見せていたバレンティーノ・ロッシの不在という異常事態に対し、パーフェクトな対処法を身につけてきたのだ

c0041105_15194337.jpg 迫りくるM1のエキゾーストノートが聞こえなくてもマシンにムチを入れることができる精神力を
 青と黄色のニンジンが目の前にぶら下がってなくてもハイペースを刻み続けることができる冷静さを…

 そして、大英帝国のファンの前でビートルズを模したファンサービスでレースを締めくくった彼は、ロッシのいないグランプリへの対処法を、世界中にアピールしているようだった

 しかし、世界中のファンにそれを受け入れてもらうため、まだ成すべき事があることは、ロレンゾ自身が一番良く知っているだろう

 バレンティーノ・ロッシという、記録と記憶の巨大な塊を打ち消す方法…それは、勝つだけでも派手なパフォーマンスを見せることでもなく、グランプリ史上に永遠に刻まれるようなバトルの主人公にならなければならない

 そしてロレンゾがその主人公を演じるなら、ロッシほど”脇役”にふさわしい相手はいないだろう
  
 今、舞台の幕はまさに上がろうとしているのか、それとも…
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by taros_magazine | 2010-07-05 15:21 | motorcycle diary
"without him (part 1)" (MotoGP 2010 Round-4 Italy)
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 彼は、行く手を阻む高くそびえる壁でもなく、視界をさえぎる目の上のタンコブでもなかった
 彼は、自分を限界の向こう側に誘う重力であり、そしてレースを走る目的そのものだった

 バレンティーノ・ロッシのいないサーキットに一人放り出されたホルヘ・ロレンゾは、あの悲劇的なクラッシュ直後からロッシの残像を求めて彷徨い続けているようだった

 グリッドではいつもの”傲慢”なメッセージボードのかわりにロッシへの想いを表した
 レースではまるで地に足がついていない走りで、ダニ・ペドロサを易々と逃がした

c0041105_145942.jpg そして耐え難い屈辱的なリザルトであったにもかかわらず、"VALE46"の黄色いTシャツを着てポディウムに現われたロレンゾ

 それは、このムジェロに詰め掛けたチームメイトのファンのため、そして何よりもこのレースで彼が感じたあまりにも大きな心の隙間を埋めるため…

 しかし、このロレンゾの行為に対し、イタリアのティフォージ達は強烈な拒絶反応を示した

 この日、キレにない走りで2位に甘んじたロレンゾが見せたロッシへの”敬意”は、王者ロッシへのあふれる”愛”を隠そうともしないイタリア人にとって”侮辱”に等しい、到底受け入れられない行為だった

 ロレンゾが望んだものとは180度反対のはずだったムジェロの反応…
 しかし、皮肉にもこの瞬間、彼の胸にあいていた大きな穴は見事に埋まった

 彼にとってロッシは、壁でもタンコブでもなかった
 彼にとってロッシは、倒し、踏み越えていくべきライバルなのだ

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 沸き起こるブーイングを受け入れ、そして最後には笑みさえ浮かべてみせたロレンゾ
 
 ロッシ不在のグランプリで、ロッシの”存在”がロレンゾをさらに速く、強くしていく
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by taros_magazine | 2010-07-05 15:00 | motorcycle diary
"the gift" (MotoGP 2010 Round-3 France)
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 そのレーサーが”本物”かどうかを見抜く方法は、案外簡単なことなのかもしれない

 たとえば、『速いヤツは何に乗っても速い』という、誰もが実感している”格言”がある

 125、250、そしてMotoGPはもちろん、市販車4ストロークの8時間耐久までも制したバレンティーノ・ロッシ
 そしてそのロッシと同じようにヤマハ、ホンダと渡り歩きながらタイトルを獲得し、そして平忠彦に8耐のトロフィーを与えたエディ・ローソン
 ウェイン・レイニーは毎年のようにタイヤメーカーを変えながら王座に君臨し、フレディ・スペンサーは1シーズンに250と500の両方のタイトルを獲得するという離れ業を演じてみせた…

 そしてもう一つ、そのレーサーの資質を知る方法がある
 それは『速いヤツは最初から速い』という厳然とした事実だ

c0041105_2035723.jpg 88年鈴鹿のケビン・シュワンツの衝撃、同年鈴鹿8耐のミック・ドゥーハンの驚異
 2006年LCRホンダでロッシに一歩も引かないバトルを見せたケーシー・ストーナー、MotoGPデビューレースから3戦連続ポール・ポジションのホルヘ・ロレンゾ…

 彼らはいずれも規格外のファーストインパクトを見せつけた

 では、このライダーの”資質”は一体どうなのか?

 5位でフィニッシュラインを通過した直後、両手で顔を覆ったダニ・ペドロサ…
 ”宿敵”ロレンゾと”最大のライバル”ロッシはおろか、チームメイトの”セカンドライダー”も抑えきれず、最後にはかつて自らがチームの”エースの座”から追い落としたニッキー・ヘイデンにさえかわされてしまった

 『逃げが決まれば無類の速さを発揮するものの、混戦になると常に一歩引いてしまう』

 レースを重ねることに大きくなるそんな風評に抗うように、昨シーズン終盤から敢えて厳しいアタックやブロックを見せ、このレースでも序盤から闘志剥き出しの激しい走りを見せていたが、またしてもそれは裏目に出てしまった…

c0041105_20352338.jpg ”4強”の一角を占めながらも、強烈な個性の他の3人に比べ、どこか”規格”を感じさせる”優等生”…
 でも、もしあの時、今のような激しいファイティング・スピリットを見せていたら…

 MotoGPデビューレース、地元スペイン、ヘレス
 ラップタイムで上回りながら、射程距離に入りかかったロリス・カピロッシを見送ってしまったあのレース…

 もしもあの時、カピロッシを本気で攻めていったら…
 あのレースで、勝利に対する執念を周囲に、そしてロッシに見せつけていたら…

 抜くことができなかったとしても、たとえ転倒してしまったとしても、その後の彼の走りの質とライバル達の目の色は違っていたのではないだろうか?

 セカンドグループで経験を積んで、徐々に速さを増していくタイプのライダーがタイトルを獲得することなど、今のグランプリではよほどの幸運に恵まれない限り無い

 ペドロサが持っているのは”幸運”なのか、それとも”天賦の才”なのか、いや、あるいは…
 彼が今のように激しい走りを続けていけば、その答えは遠からず明らかになるだろう
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by taros_magazine | 2010-06-05 20:39 | motorcycle diary
"Overflow" (MotoGP 2010 Round-2 SPAIN)
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 何度も何度も叫んでみた

 コースから駆け出し、フェンスによじ登ってみた
 レザースーツにヘルメットのまま、池の中に派手にダイブもした 

 パルクフェルメに戻るなりタンクの上に立ち雄叫びを上げた
 それでもまだ抑えきれず、ピットウォールに仁王立ちし、もう一度叫んでみた

 それでもまだホルヘ・ロレンゾのアドレナリンは止まらない
 表彰式後の公式インタビューでもまだ言葉が出てこなかった…

 欲しくて欲しくてたまらなかった母国グランプリでの勝利…そのチェッカーまでの道のりは、これまで彼がMotoGPで戦った6回の”ホームタウンGP”のリザルトのように、厳しく険しいものだった

c0041105_15342368.jpg ドゥカティ勢とのバトルの間に逃げていくトップ…それは出走すらできなかった08’のカタルニアや序盤にクラッシュしてしまった09'のこのヘレスのようにもどかしかった

 得意のブレーキングでケーシー・ストーナーに差された
 去年まで眼中になかったハズのニッキー・ヘイデンに何度も被せられた

 それでも、何度も負傷から蘇ったようにロレンゾは耐えて、そして彼らを抜き去った

 そしてバレンティーノ・ロッシの真後ろについたのはレースも終盤にさしかかった頃だった
 
 08'のヘレスでは最後までオーバーテイクをためらった偉大なチームメイト…
 去年のカタルニアでは最後の最後に打ちのめされた最強の王者…

 しかしこの日ロッシを抜き去る時のロレンゾのテクニックは驚くべきものだった
 
 わずかにアウトに寄せながらのハードブレーキングで相手のクロスラインを防ぎ、イン寄りからクリップを立ち上がるとそのままライバルの加速ラインを許さないようにアウトへ直線的に加速していく…
 それはあのカタルニアの最終コーナーでロッシがただ一度ロレンゾに見せた伝家の宝刀そのものだった 

 遂に目の前にダニ・ペドロサを捕らえた

 彼が勝てなかった6つのレースで3度勝利している”スペインの至宝”…
 その彼との決戦は熾烈を極めるものだった
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 開幕戦から明らかにオーバーヒートしているペドロサのファイティング・スピリットは、ひとつ間違えば共倒れとなりかねないような接触をも決してためらわなかった

 それでもロレンゾはまだ耐えていた
 あふれ出そうになるアドレナリンを彼は必死に抑えていた

 レースを制したのは耐えていた男だった
 チェッカーの瞬間、これまでの6レースでの鬱憤を晴らすかのように大量のアドレナリンが彼の身体中を駆けめぐった
 
 この日の勝利は、ロレンゾにとてつもなく大きな変化をもたらすことになるかもしれない

 それは”何かを得た”というようなものではなく、何かの”封印が解かれた”という表現がふさわしいだろう

 その時、ロレンゾについて行くことができるのは…
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by taros_magazine | 2010-05-05 15:37 | motorcycle diary