カテゴリ:motorcycle diary( 155 )
No Side Spirit (MotooGP 2015 Round-18 VALENCIANA GP)
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 2015 ラグビー・ワールドカップ

 お互いが決勝トーナメント進出に向け、負けられない状況で戦うことになった日本とサモア

 試合はサモアが一時退場者を2名出すほど激しい死闘となり、最後はサモアの反則で得たペナルティをうまく活かした日本が勝利した

 ラグビーの世界では”格上”のはずだったそのサモア代表の主将 トゥシ・ピシは、試合直後のインタビューできっぱりと言い切った
 『レフェリーの判定は公平だった。自分たちの"規律"がとれていなかった』

 そして決勝トーナメント進出どころか、過去の同国のラグビーワールドカップ史上最悪のリザルトが現実味を帯びることとなったその試合後、彼らは日本のエース 五郎丸歩のもとを訪れた

 彼らの目的…それは、終わったばかりの、サモアの選手にとってみれば屈辱的であったはずの試合の(サモアのメンバーで話し合って決めた)MVPを称える、小さな手作りのトロフィー渡すことだった


c0041105_12115214.jpg やはり、バレンシアでは何も解決しなかった

 タイトル争いの決着も、グランプリを覆っているグレーな雲を晴らすことはなかった
 それどころか、事態は悪化の一途をたどっている

 決勝レースの上位争いをビデオでしか見ることのできなかった敗者は、チームメイトのタイトルに『八百長』という言葉を贈った

 30ラップのレース中のほとんどをトップからコンマ5秒以内で走り続けたアグレッシブが売りの前王者は、一度もアタックすることなくそのまま2位でフィニッシュした

 一旦は涙ながらに"スペイン連合"の恩恵を口にした王者は、一夜明けるとチームメイトを『速くもないし、もう勝てない年寄り』と罵った

 地元スペイン勢の表彰台独占、そしてスペイン人の逆転タイトル獲得を目の当たりにしたファンがポディウムに送ったのは大きな拍手と口笛、そしてそれを上回るかと思えるほどの盛大なブーイングだった


 ライダー、チーム、ファン、メディア…皆が出口の見えない暗闇の迷路の中で、自分の向かっている方向だけに光が見えてくると思ってバラバラに突き進んでいる

 もはや誰かが正しかったということが証明されたり、誰かが間違っていたと認めるような解決法はあり得ないだろう


c0041105_12123523.jpg だからこそ、皆が過ちを認めなければならない

 シーズンがクライマックスを迎える中で、コース外で他のライダーに対する疑惑を公言し、さらにコース上で怒りを爆発させたことを

 タイトルが懸かっているライダーを相手に、序盤から1ラップに10回もオーバーテイクの応酬を挑むことを

 ドライなら、転倒がなければ、などと弱点を認めようせず、勝った時の結果だけでタイトルにふさわしいと吹聴することを

 相手が引かなければ共倒れするしかないようなオーバーテイクが野放しになっている現状を

 そして、勝者を祝福せず感情のままにブーイングを浴びせたことを…


 グランプリがスポーツである限り、王者は1人しかその存在を許されない

 しかし、残りの全てのライダーには、良き敗者として皆から敬意を集められる機会が与えられる

 そして今シーズンに限っては、良き敗者はチャンピオン以上の存在になれるはずだ



 あの日、小さなトロフィーを受け取った五郎丸選手はツイッターでこう述べた

 『敗者となった彼らから貰った贈り物は試合のMVPカップより価値があり我々もこんなチームになりたいと思えた。』

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by taros_magazine | 2015-11-11 12:14 | motorcycle diary
Catastrophe , part4 (MotooGP 2015 Round-17 MALAYSIA GP)
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 『次戦での最後尾グリッドからのスタート』

 これがタイトル争いをかろうじて維持させるためだけに、運営側がひねり出した苦肉のペナルティであることは誰の目にも明らかであり、レースディレクションが認めたようにロッシの"蹴り"がなかったとしても、ロレンソの言うとおり"軽すぎる"処分だろう

 しかし、そのロレンソの行為もまた、この件の後味の悪さを際立たせた

 2010年、もてぎ…悲願の初タイトル目前のレースで、タイトル争いから脱落したロッシが仕掛けてきた接触上等のバトルを終えた後、そのライディングを激しく非難した彼は、このマレーシアで勃発したロッシとマルケスの論争については無関係の姿勢を貫こうとした

 確かにあのもてぎで、ロレンソはロッシをコース脇に追い詰めたりしなかったし、走行中にあからさまな非難のアクションをすることもなかった

 しかしこの日、ロレンソは何が起きたのかを正確に知る前の段階で、勝者を称える儀式を無視してポディウムから去って行った

c0041105_085599.jpg その行為は、レース中に彼のサインボードに示された『MARQUEZ OUT』の文字と同様、すり減ったロッシの神経を不必要に逆なでし、この問題をさらに複雑にするだけだろう

 事ここに至っては、どんな展開になろうともチャンピオン決定戦であるはずの最終戦が素晴らしいレースになるとは思えない

 タイトルに無関係のライダー…例えばアンドレア・イアンノーネやダニロ・ペトルッチがロレンソのインに10回や20回ネジ込んだところで、お咎めはないのだ

 ポイント争いをしている相手が真横に並んできたら、時速60キロでコース脇まで押し出してしまえばいいのだ。それでもポイントを剥奪されることはないのだから

 そして遠くない将来、F1のように『抜かれる方が進路変更できるのは1回だけ』などというレギュレーションが明文化される日がやってくるのかもしれない…


 21世紀に入ってからのグランプリを、圧倒的な強さと絶大な人気で支えてきた巨星、バレンティーノ・ロッシ

 願わくば、どんな結果になろうとも最終戦バレンシアのチェッカーフラッグの後、自分からホルヘ・ロレンソにその手を差し伸べてほしい

 輝かしい時代と伝説が、彼自身の行為で汚されたまま終止符を打たれることのないように…

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by taros_magazine | 2015-10-29 20:55 | motorcycle diary
Catastrophe , part3 (MotooGP 2015 Round-17 MALAYSIA GP)
 タイプの似た"ファイター"同志…
 そう言われてきたロッシとマルケスの2人

 しかし、実はまったく違うライダー同志なのだということに、ロッシは気づいていた

 彼らのバトルの見どころであるオーバーテイクのシーンについても、マルケスの武器がハードブレーキングからの巧みなターン・インであるのに対し、ロッシはマシンを切り返す瞬間のラインコントロールの絶妙さを武器にしてきた
 
c0041105_21433078.jpg マシンの限界を超えるようなライディングも、110%の速さを瞬間的に何度も見せてぶっちぎってきたマルケスに対し、ロッシは110%の爆発力を必要な時には必ず出しきって勝ってきた

 そして何より、ロッシは”古き良きグランプリ”を知る最後のライダーだろう

 彼がグランプリで最初に味わったのは、老獪かつ抜群のテクニックを持つ125ccのライダーたちからの”洗礼”だった

 ただ速く走るだけではない、時に冷静に、時に熱く…マシンではなく人間同士が繰り広げるレースから、彼はグランプリでの戦い方を学んできた

 250ccには自分とはまったくタイプの違う”天才”がいた
 MotoGPでは目の前でライバルが、親友が旅立ってしまう瞬間を目にした

 このマレーシアで誰よりも多くグランプリを経験したライダーとなった彼だからこそ、すべてを背負って戦っているという自負があるからこそ、タイトルに対して必要以上に気持ちを高ぶらせてしまうのかもしれない

c0041105_21434968.jpg 片やマルケスは文字通りの新時代のライダーだろう

 彼がデビューした当時、既に125ccクラスには年齢制限が設けられ、若いライダー達による派手なぶつかり合いがそこかしこで見られるようになっていた

 そんな中で結果を出し、生き残ったライダー達は、パワーユニットがワンメイクのマシンで争われるMoto2でさらに過激な争いを繰り広げることになる
 
 転倒か優勝かという激しい走りを見せたマルケスは、そこでもタイトルを獲得するとルーキールールをも撤廃させ、最強のワークスマシンを手に入れた
 そして、そのライディングスタイルを不安視する声をよそに、彼は見事にMotoGPマシンをモノにし、瞬く間に最高峰を制した

 持てる全てを駆使して、誰よりも速く走ること
 誰であろうと、何と思われようと、とにかく前にいるライダーを抜き去ること…

 それこそが、マルク・マルケスというライダーの哲学であり、現在のグランプリシステムが育んだ正常進化型のチャンピオンなのだ

c0041105_23364880.jpg 負け方を知らないマルケス

 負けることの悔しさを誰よりも知ってるロッシ

 2人のライダーは、1枚のコインの裏表のように隣り合わせにいながらも常に反対側を向いていた
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by taros_magazine | 2015-10-28 23:01 | motorcycle diary
Catastrophe , part2 (MotooGP 2015 Round-17 MALAYSIA GP)
c0041105_13322893.jpg レースは悪い意味でロッシの予想通りのものになった

 序盤からハイペースで走るロレンソは、あっという間にロッシとマルケスを抜き去り、トップを快走するペドロサを追いかけて行った

 そしてロッシの目の前にはマルケスがいた

 マルケスは、一瞬のミスを突かれオーバーテイクしていったロレンソを追いかけることを早々にあきらめたかのように、前に出ようとするロッシとの肉弾戦を開始した

 1ラップで10回近くも順位を入れ替える異常なオーバーテイク合戦…業を煮やしたロッシがマルケスを何度もにらみ付け、左手でアクションを起こしても、マルケスはインからアウトからロッシを攻撃し続けた。前を行く2台から1秒も遅いタイムで…

 それは明らかにレースにおける”バトル”ではなかった

c0041105_13324037.jpg 89年に鈴鹿でシュワンツとレイニーが演じた究極のバトルが今だに伝説として語り継がれているのは、あのコース幅の狭い鈴鹿で、1ラップに5回、6回と順位を入れ替えながらも、3位以下を毎ラップ1秒近く引き離していくという離れ業を見せたからだ

 そしてシュワンツはシケインでレイニーの鼻先をカットして行った後には、ストレートで軽く詫びるサインを見せていた

 レイニーはバックストレートでシュワンツのブレーキレバーに手を伸ばしたりもした。ただ、それは明らかにシャレの範囲とわかるものだった

 アメリカ時代から自他共に認める犬猿の仲だった二人は、このバトルを境にお互いに対する絶大な信頼と敬意を持つようになった

 もちろん異なるメーカーのエース同士、パドックで談笑するようなシーンこそ見せなかったが、その後何度となく繰り返された2人のバトルは、常に超接近戦ではあっても最後の一線を超えるようなことは決してしなかった

 しかし、ロッシは遂に切れてしまった

c0041105_13373417.jpg 勝利に向けたバトルではもつれればもつれるほど強さを発揮する彼が、ことチャンピオンシップがもつれた時には意外なほどにナーバスになってしまうのだ…あの2006年のバレンシアのように…

 グランプリのレースとは程遠いスピードとラインで、彼は明らかに意図的にマルケスをコースの淵に押し出した

 そのままストップするか、強引にロッシを押しのけて前に行くかしかない状況に追いやられたマルケスは、当然のように後者を選択した

 意を決してロッシのマシンに向けてリーンを再開したマルケスの体とロッシの左足が重なり合った直後、レジェンド王者の完全復活で大いに盛り上がった2015シーズンは事実上幕を下ろした

 それは、高く上がったシャボン玉がはじけて消えるように、あっけないものだった

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by taros_magazine | 2015-10-28 22:29 | motorcycle diary
Catastrophe , part1 (MotooGP 2015 Round-17 MALAYSIA GP)
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 2006年、バンレンシアGP

 それはいくつもの印象的な光景が積み重なった、狂おしくも美しいレースだった

 前戦でチームメイトに追突されポイントリーダーの座を失ったニッキー・ヘイデンと、思いもしない形でタイトルに王手をかけたバレンティーノ・ロッシ

 彼本来の力強い走りで、がむしゃらに先行するヘイデン
 ポイントの計算に集中力を削がれ、カオスの深渕に嵌っていくロッシ
 大きな十字架を背負い、ニッキーのサポートのために力走するダニ・ペドロサ
 そして、2人の決戦を息をひそめて見守るかのように周回を重ねるライダー達・・・

c0041105_13275262.jpg 自らの痛恨のミスで、ほとんど手中におさめていたタイトルを逃したロッシは、数分前まではチャンピオンシップ・ランとなるはずだったそのコース上にニッキーの姿をみつけると、マシンをそっと横に並ばせ、そして新たな王者へ祝福の手を差しのべた


 あのシーンから9年、何もかもが変わってしまった

 そこには世界最高峰のカテゴリーで戦うというプライドも、他のライダーに対するリスペクトも存在しなかった

 思えば、今シーズン序盤まで噛み合っているように見えた2人のバトルも、一皮剥けば感情むき出しの肉弾戦に過ぎなかったのだ

 久々の栄冠を前にしたかつての絶対王者は、タイミングも場所もお構いなしに絡んでくる若造に辟易としていた

 すでに3連覇の望みを断たれた若き王者は、コース上の速さではなく人気を傘に着た”口撃”で常に優位に立とうとするロートルに我慢できなくなっていた


c0041105_13292987.jpg そんなフラストレーションを先に爆発させたのはロッシだった

 ジワジワと真綿で首を絞められるようにポイントを削り取られていった彼は、このグランプリが始まるとマルク・マルケスが自分を意図的に妨害していると公然と批判した

 それは、彼が長いグランプリ生活の中で何度も駆使してきた得意の心理戦…ではなかった

 彼は本気で、マルケスが自分ではなくホルヘ・ロレンソにタイトルを獲らせるために意図的にドアを閉めようとしていると思っていた

 一方でマルケスの本心はわからないままだった

 ただ、このロッシの発言が”若造”の涼しげな笑顔の裏側で燃えさかる炎にとびきりオクタン価の高い燃料を注いだことだけは確かだった
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by taros_magazine | 2015-10-28 22:26 | motorcycle diary
el fantasma (MotooGP 2013 Round-2 America's GP)
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 今まで何人ものライダーが”彼”の再来と言われた

 ある者は若さで、またある者は破壊的なライディングで、そしてある者はその奇行で…

 しかし、彼らはいつのまにか”普通”のライダーになり、やがてグランプリを去っていった

 そして誰もが『”彼”の再来などいない』と思い知らされるのも束の間、ほとぼりが冷める頃になるとまたぞろ”彼の亡霊”に悩まされるのだ… 


 フレディ・スペンサーの走りを初めて(テレビで)見たのは、もう30年も前のことだ

 1983年、あのケニーVSフレディの世界グランプリ終了直後の全日本最終戦、鈴鹿

 ゲスト参加のスペンサーは、予選でコースレコードを出した平忠彦よりも3秒も速い圧倒的なタイムを叩き出すと、決勝でも別次元の速さで当然のように優勝をさらってしまった

 どこにでもいそうな童顔の青年と、コースで見せる驚異的なライディング…
 その凄まじいギャップは、まさに努力や経験というものとは無縁の”天才”の成せる業そのものに思えた


c0041105_232019100.jpg このオースチンの予選でのマルク・マルケスのライディングを見た瞬間、アナウンサーが記録のことに触れるまでもなくあの日のスペンサーのことを思い出した

 もちろん、前乗りで上体を起こし気味に乗るスペンサーと全身をリーンインさせるフォームのマルケスは一見すると正反対のように見える

 しかし、その深々とバンクさせたマシンと路面との間に自らの身体を挟むようにしてコーナーリングしていく姿が、ヒザを路面に激しく擦りつけてバンク角とトラクションをコントロールするようなスペンサーのフォームとどこかダブって見えたからだ

 決勝レースでもマルケスのマシンはお世辞にもベストセッティングとは思えない激しい挙動を最初から最後まで見せていた

c0041105_2320535.jpg それでも彼は、アップダウンのきついコースを、不安定なマシンのコントロールを楽しんでいるかのように縦横無尽に駆け抜け、そして勝利して見せた

 それは、あの日テレビ画面で見たスペンサーの姿…まるで氷の上をスリックタイヤで疾走しているかのようなマシンコントロールを見せていた…そのものに見えた


 そしてまた繰り返す無意味な問答… 

 はたして、彼はスペンサーの再来なのか?それとも彼もまた”亡霊”なのか?

 ただ、マルケスにはいままでの”彼の亡霊たち”と決定的に違う点があった

 それは、この30年間誰もできなかったスペンサーの記録をひとつ消し去ってみせたことだ

 そして、彼がもうひとつのスペンサーの記録を消し去る時…

 その時こそ、未だグランプリを彷徨う肥大化したスペンサーの記憶…”スペンサーの亡霊”…をも消し去る瞬間なのかもしれない

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by taros_magazine | 2013-05-05 16:32 | motorcycle diary
killer instinct (MotoGP 2013 Round-1 QATAR)
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 ”ずっとこれがやりたかったんだ”
 
 一瞬の決断、勇気、そして己の技術とマシンに対する絶対的な信頼

 ダニ・ペドロサを、そしてマルク・マルケスのインを差していくバレンティーノ・ロッシの走りは自信に満ち溢れていた

 2月のセパン、明るさを取り戻したロッシは2日目にはトップタイムをたたき出すなど、その”復帰ロード”は傍目には順調この上なく写っていた

 しかし、この2年間で彼の心の奥底に刻まれたトラウマは、思いのほか深いものだった

c0041105_22531145.jpg カタールでのナイトレース…
 決して得意とは言えないこのコースで、それでもロッシはスタート直後から勇気を振り絞った

 7番手グリッドからまずまずのスタートを決めると、直後にはステファン・ブラドルを、次にカル・クラッチロウをイン側から抜き去ると、目の前にいるのはこの2年間、自分を苦しめ続けてきたイタリアンレッドのマシンだった

 ドゥカティでの自分と決別するかのように、猛然と1コーナーでアンドレア・ドヴィツィオーゾのインに飛び込んだロッシ

 しかし、そのラインはかつての彼がトレースしていたそれよりもわずかにワイドになってしまった

 ライン上にいたペドロサとの接触を避けるため、大きく減速したロッシが戻ったのはブラドルの後ろだった

c0041105_22534013.jpg ほんの1ラップ前には一回で仕留めたブラドル
 しかし、1コーナーでの出来事が忘れかけていたトラウマを思い出させた

 ”やっぱり…ダメなのか…”

 ヘルメットの中で自問自答を繰り返すように、ブラドルの後ろでもがき続けるロッシ
 この2年間で何度も裏切られた”フロントまわり”に対する恐怖を振り切れないまま、ラップだけが経過していく…

 かつての絶対王者の、グランプリ史上最高のエンターテイナーの”瀬戸際”を、世界中が固唾を呑んで見守る中、ついにロッシが動いた

 ブラドルのインをバックファイヤを吹き上げて抜き去ったロッシは、さらにスピードを上げ2位争いに猛然と迫っていった

 そのネコ科の動物のように、しなやかかつ獰猛なライディングスタイルは、まさしくバレンティーノ・ロッシそのものだった

c0041105_2254772.jpg ダスティなストレートで砂塵を巻き上げながらも、1コーナーのブレーキングでクラッチロウを撃墜すると、S字ではわずかに開いたペドロサのインの迷わず飛び込んでいった

 そして必死の抵抗を見せるマルケスに対しても最後までスキを与えなかった

 かつて、”ホンダが速いんじゃなく、自分が速いんだ”ということを証明するために敢行した同じ”ヤマハ移籍”で、今度は”自分が遅かったんじゃなく、ドゥカティが遅かったんだ”ということを証明したロッシ

 本能のライディングとフロントへの信頼を回復した彼は、同時にパドックでの尊敬も取り戻した

 しかし、彼が本当に取り戻さなければならないモノは、この日トップでチェッカーを受けたチームメイトが持っている…

 ロッシの復活劇は、まだ始まったばかりだ
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by taros_magazine | 2013-05-05 14:51 | motorcycle diary
four feelings  (MotoGP 2012 summer ~ autumn)

c0041105_2145014.jpg この2年間のすべてが無駄だった

 莫大な努力と壮大な時間の浪費・・・

 込み上げてくる負の感情を押し殺したバレンティーノ・ロッシは、ピットボックスで赤いマシンから降りると、労をねぎらいにやってきたフィリッポ・プレチオージの前を素通りしていった

 あの日、イタリアの誇りに跨ったイタリアの英雄にイタリア中が熱狂した

 日本式の仕事の進め方を揶揄し、意気揚々と乗り込んできたイタリアのチームで、10個目のタイトルを獲得した後には今度は赤い4輪のマシンを…

 そんな彼の確信に満ちた未来図はあえなく崩壊した
 勝利はおろか表彰台すら遠く離れた位置でもがき続けた2年間…

 誇りも自信もズタズタに引き裂かれ、跳ね馬でのレースもあきらめた彼は、いつの頃からか日本製のマシンにもう一度乗ることだけを願うようになっていた

 果たして、彼の”最後の”願いは叶えられた
 しかし、それは一切の言い訳が許されないことを意味する

 ロッシがロッシであるための、すべてを賭けたシーズンがいよいよ始まる

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c0041105_21452637.jpg ダニ・ペドロサは、突然”化けた”のではない

 彼が誰に何と言われようと、ただひたすらに続けてきたハードアタックを、今彼は完全に自分のモノにし、そして遂に完成形に至ったのだ

 MotoGPクラスでのデビューレースが象徴したように、若き日の彼は経験を積み重ねながら着実にステップアップをしていこうと思っていたはずだ

 しかし、速さでは負けていないと思っていたニッキー・ヘイデンがタイトルを獲得し、かつての同門や同郷のライバルにも先を越され、”優等生”はいつしか誰よりも熱く、激しい走りをするようになっていた

 その兆しが見えたのは2010年のUSGPだった
 トップを走行しながら5コーナーでクラッシュパッドまで飛ばされたあのレース…

 あの時のダニは、明らかにそれまでの彼ではなかった

 前年には後続との差を計算しつくした憎らしいほど完璧な勝利を見せたそのラグナ・セカで、こじれたフロントを浮かせたままフル加速し、ゼブラをカットし、彼以外には見えない誰かを追うように攻め続け、そして散った

 そして今、ホルヘ・ロレンソをブレーキングで差し、ケーシー・ストーナーのようにフルバンクで両輪をドリフトさせる彼…

 もしかすると、あのラグナ・セカで彼が追い続けたのは今のダニ自身だったのかもしれない

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c0041105_21455619.jpg この男は決してあきらめない

 最後の最後、その瞬間まで、自分には絶対にできると信じている

 最終戦、ウェットのバレンシア

 ラップタイムで5秒遅いジェームズ・エリソンを抜きにかかったホルヘ・ロレンソは、水の浮いたラインに乗ると激しくマシンを振られた

 瞬時に抜重しリアをグリップさせ、同時にわずかにマシンを起こしフロントを回復させると、未だ挙動の収まっていないマシンで、同じく濡れた路面で、彼は再びオーバーテイクを試みた

 直後、派手にマシンから振り飛ばされるまでの、1秒にも満たない瞬間の彼の驚異的な反射神経とマシンコントロール…

 しかし、彼がこのような芸当を見せたのはこれが初めてではない

 2009年、フィリップアイランド
 高速の1コーナーでニッキー・ヘイデンのリアに接触してしまったロレンソは、そのままなすすべなくスリップダウンするかに見えた

 しかし、ダスティなトラック上で、彼はもう一度マシンをバンクさせるとコーナーの出口にマシンを向けようとスロットルを開けた

 滑るマシンをブレーキとバンク角で何度もコントロールしようと彼の試みは、接触時にすでに破損していたフロントブレーキにより果たせなかったが、200kmを超えるハイスピードでコースアウトしようとしているマシンを”立て直せる”と信じられるライダーはこの男だけだろう

 新たなチームメイトとして仇敵ロッシを迎えることすら問題にしなかった”王者”

 その寛大さの根拠は、自分の技術に対する絶対的な信頼だろう

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c0041105_21462044.jpg "GOING FISHING"

 それが、グランプリに革命的なライディング・スタイルを持ち込んだ天才に対する最後のピットサインだった

 彼以外、誰も乗りこなせなかったデスモセディチでタイトルを獲得し、カムバックしたホンダで10勝を挙げて再び王者となると、その翌年には引退を宣言してしまう…

 スマートで純朴そうな外見に似合わない激しい気性と、彼にしかできない常軌を逸したライディング…

 そのあまりの速さがもたらす完璧な勝利の方程式は、サーキットにスペクタクルを求めてやってきた観客からブーイングさえ浴びるほどだった

 それでも彼はスタイルを変えなかった

 後続に自らの影を踏ませる隙を与えず、ただひたすらにスピードを上げていく走り

 そのライディングは、ロレンソやペドロサといったライバルが成長してくるにつれて、異次元の高みへと突入していった

 気がつけば、誰もが彼のそんなライディングの虜になっていた

 その矢先の引退…

 しかし、自らの足で愛する家族の元へと帰っていけることがどれほど幸せか…ということを、この数年の間に起きた悲劇を目の当たりにした彼の仲間たちも、そして私達ファンも知っているからこそ、ストーナーを笑顔と拍手で送り出した

 イン側のゼブラゾーンにブラックマークを引いていく彼の姿を、いつまでも忘れない

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 すべての喜怒哀楽をはらんだ、人間と機械の究極のコラボレーション、MotoGP

 その新たな幕が、今また上がる
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*諸事情により、半年以上当ブログを放置しておりました。コメントいただいた方、閲覧していただきました方、皆様に深くお詫びいたします
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by taros_magazine | 2013-04-05 22:02 | motorcycle diary
Tear Off  (MotoGP 2012 Round-7 Dutch TT)
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 バレンティーノ・ロッシがピットに入ってくる姿を見ても、自分は驚かなかった

 むしろタイヤを交換して再びレースに戻ったことの方が意外だった…

 伝統のアッセンで、彼は明らかに苦戦していた

 それはこの赤いマシンに乗って以降、常に悩まされてきた”セットアップ”というようなレベルではなく、さらに深刻で出口の見えない問題に見えた

 繰り返してきたフレームやスイングアームの改良、数え切れないほど試してみた足回りやハンドリングのセッティング…一縷の望みを繋いできた1000ccマシンも、乗ってみたらむしろそれまでよりも”ダメ”なマシンだった

c0041105_2334642.jpg タイトルはもちろん、勝利も…いや、表彰台すらすっかりおぼつかなくなってしまった"THE DOCTOR"が自分に言い聞かせてきた唯一のモチベーションだった”開発”…

 それすらも完全に瓦解し、ダッチウェザーにさえも見放されたこの日の彼にとっては、グリッドにつく理由は”契約”以外にはなかったのかもしれない

 そう思わせたのがレース前の彼の姿だった

 ピットではいつものようにコース図を手にレースシミュレーションをするわけでも、PCでデータを確認するわけでもなかった

 ロッシは集まったスタッフ、とりわけブリヂストンのエンジニアを前に厳しい表情でまくしたてているように見えた

 さらにグリッド上では、あきらめたような笑みをうかべるジェレミー・バージェスらスタッフと視線も合わさない
 さらに目の前のテレビカメラにさえしばらく気がつかず、ただ視線を下に落としていた

 いざレースが始まると、彼に幾分運がめぐってきたような展開となった

 アルバロ・バウティスタがポイントリーダーのホルヘ・ロレンゾを道連れにクラッシュし、目下のライバルのうちの一人であるステファン・ブラドルも早々にリタイアし、オープニングラップを終えるとなんと”望外”の5位につけていた

 しかし、それすらもこの日のロッシの闘争本能を呼び覚ますことはなかった

 ラップごとに1秒ずつ4位から離され、一度はコースアウトしたチームメイトにまであっさりとかわされ、そしてサテライトチームの同じマシンの攻撃に耐え切れなくなると、彼はそのままピットを目指した

 ゆっくりとピットに戻るロッシと対照的に見事な手際でタイヤ交換を行うチームを見たとき、あのレース前のピットでの出来事を理解した

 あの時、おそらくロッシはこう言っていたのだろう
 『このコンディションじゃ絶対にタイヤはもたない。もしそうなったらオレはピットに戻る』と…

 ソフトタイヤを履き、ふたたびコースに戻ると同時に、かつて彼が纏っていたカラーリングのマシンが2台、猛然と彼の横をかすめていった

 周回遅れとなったロッシがそのとき感じたのは、屈辱などではなく、あのマシンに対する憧憬だったのではないだろうか?

 ピットアウトしていくロッシが捨てたのは、ティアオフシールドだけでなくもっと大切なものだったのかもしれない…
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by taros_magazine | 2012-07-02 23:36 | motorcycle diary
CRTとは何だったのか?(MotoGP 2012 Round-6 Great Britain)
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 素晴らしいマシンを得て、その才能を思う存分発揮するケーシー・ストーナーの走りや、精密機械のようにハイペースでラップを刻み続けるホルヘ・ロレンゾのレースコントロール、さらにはカル・クラッチロウやアルバロ・バウティスタの急成長など、この数年になく見所の多い今シーズン…

 暗い話題が先行していた昨シーズン終盤以降の流れからすれば、グランプリは”盛り上がっている”と言ってもいいのかもしれない

 しかし、多くのファンが見つめるトップグループの遥か後方で繰り広げられているCRT勢の”レース”を何と表現すればいいのだろう?

 2003年にはCAS(スポーツ仲裁裁判所)の判断を仰いでまでも失格にした市販車ベースのエンジン…その”禁じ手”を、FIMは寂しくなる一方だったグリッドを何とか埋めるために今度は”グランプリの未来”とまで言って推奨した

c0041105_22312021.jpg しかし、少なくとも”レース”をする上ではメリットどころかハンディキャップでしかないようなレギュレーションに則ったマシンは、あわよくばプロトタイプを食うどころか、タイム的にはライバルはむしろSBKのマシンという有様だ

 そしてグランプリの救世主になるはずだったそのマシンは、皮肉にも現役グランプリ王者がレースに対する情熱を失い引退を決意する原因のひとつになってしまった

 もちろん、CRTマシンに乗るライダーや走らせているチームの情熱は本物だろう

 プロトタイプの台数がそろわない中、この困難な状況でもMotoGPというカテゴリーに留まる決断を下したランディ・ドピュニエやコーリン・エドワーズは十分に尊敬に値する奮闘を見せているし、新たに参入したチームの勇気も大いに賞賛されるべきだろう

 それでも、そのマシンが最高峰の舞台を走るにふさわしいとはどうしても思えない

 かつて北川圭一がXフォーミュラーのマシンでワークスのスーパーバイク勢を追い回していた全日本ロードレースのような光景を、グランプリのトップカテゴリーに求めるのは何かが違うのではないだろうか?

 これから勝ち目のないレースに臨もうとしているライダーが、グリッド上で無邪気にテレビカメラに向かって手を振る姿や、その”カテゴリー”でトップフィニッシュしたマシンがパルクフェルメに並び、そこで関係者が大喜びする姿を目にするたびに、また拭い去れない違和感が積み重なっていく…

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by taros_magazine | 2012-07-02 22:38 | motorcycle diary