2013年 05月 05日 ( 2 )
el fantasma (MotooGP 2013 Round-2 America's GP)
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 今まで何人ものライダーが”彼”の再来と言われた

 ある者は若さで、またある者は破壊的なライディングで、そしてある者はその奇行で…

 しかし、彼らはいつのまにか”普通”のライダーになり、やがてグランプリを去っていった

 そして誰もが『”彼”の再来などいない』と思い知らされるのも束の間、ほとぼりが冷める頃になるとまたぞろ”彼の亡霊”に悩まされるのだ… 


 フレディ・スペンサーの走りを初めて(テレビで)見たのは、もう30年も前のことだ

 1983年、あのケニーVSフレディの世界グランプリ終了直後の全日本最終戦、鈴鹿

 ゲスト参加のスペンサーは、予選でコースレコードを出した平忠彦よりも3秒も速い圧倒的なタイムを叩き出すと、決勝でも別次元の速さで当然のように優勝をさらってしまった

 どこにでもいそうな童顔の青年と、コースで見せる驚異的なライディング…
 その凄まじいギャップは、まさに努力や経験というものとは無縁の”天才”の成せる業そのものに思えた


c0041105_232019100.jpg このオースチンの予選でのマルク・マルケスのライディングを見た瞬間、アナウンサーが記録のことに触れるまでもなくあの日のスペンサーのことを思い出した

 もちろん、前乗りで上体を起こし気味に乗るスペンサーと全身をリーンインさせるフォームのマルケスは一見すると正反対のように見える

 しかし、その深々とバンクさせたマシンと路面との間に自らの身体を挟むようにしてコーナーリングしていく姿が、ヒザを路面に激しく擦りつけてバンク角とトラクションをコントロールするようなスペンサーのフォームとどこかダブって見えたからだ

 決勝レースでもマルケスのマシンはお世辞にもベストセッティングとは思えない激しい挙動を最初から最後まで見せていた

c0041105_2320535.jpg それでも彼は、アップダウンのきついコースを、不安定なマシンのコントロールを楽しんでいるかのように縦横無尽に駆け抜け、そして勝利して見せた

 それは、あの日テレビ画面で見たスペンサーの姿…まるで氷の上をスリックタイヤで疾走しているかのようなマシンコントロールを見せていた…そのものに見えた


 そしてまた繰り返す無意味な問答… 

 はたして、彼はスペンサーの再来なのか?それとも彼もまた”亡霊”なのか?

 ただ、マルケスにはいままでの”彼の亡霊たち”と決定的に違う点があった

 それは、この30年間誰もできなかったスペンサーの記録をひとつ消し去ってみせたことだ

 そして、彼がもうひとつのスペンサーの記録を消し去る時…

 その時こそ、未だグランプリを彷徨う肥大化したスペンサーの記憶…”スペンサーの亡霊”…をも消し去る瞬間なのかもしれない

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by taros_magazine | 2013-05-05 16:32 | motorcycle diary
killer instinct (MotoGP 2013 Round-1 QATAR)
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 ”ずっとこれがやりたかったんだ”
 
 一瞬の決断、勇気、そして己の技術とマシンに対する絶対的な信頼

 ダニ・ペドロサを、そしてマルク・マルケスのインを差していくバレンティーノ・ロッシの走りは自信に満ち溢れていた

 2月のセパン、明るさを取り戻したロッシは2日目にはトップタイムをたたき出すなど、その”復帰ロード”は傍目には順調この上なく写っていた

 しかし、この2年間で彼の心の奥底に刻まれたトラウマは、思いのほか深いものだった

c0041105_22531145.jpg カタールでのナイトレース…
 決して得意とは言えないこのコースで、それでもロッシはスタート直後から勇気を振り絞った

 7番手グリッドからまずまずのスタートを決めると、直後にはステファン・ブラドルを、次にカル・クラッチロウをイン側から抜き去ると、目の前にいるのはこの2年間、自分を苦しめ続けてきたイタリアンレッドのマシンだった

 ドゥカティでの自分と決別するかのように、猛然と1コーナーでアンドレア・ドヴィツィオーゾのインに飛び込んだロッシ

 しかし、そのラインはかつての彼がトレースしていたそれよりもわずかにワイドになってしまった

 ライン上にいたペドロサとの接触を避けるため、大きく減速したロッシが戻ったのはブラドルの後ろだった

c0041105_22534013.jpg ほんの1ラップ前には一回で仕留めたブラドル
 しかし、1コーナーでの出来事が忘れかけていたトラウマを思い出させた

 ”やっぱり…ダメなのか…”

 ヘルメットの中で自問自答を繰り返すように、ブラドルの後ろでもがき続けるロッシ
 この2年間で何度も裏切られた”フロントまわり”に対する恐怖を振り切れないまま、ラップだけが経過していく…

 かつての絶対王者の、グランプリ史上最高のエンターテイナーの”瀬戸際”を、世界中が固唾を呑んで見守る中、ついにロッシが動いた

 ブラドルのインをバックファイヤを吹き上げて抜き去ったロッシは、さらにスピードを上げ2位争いに猛然と迫っていった

 そのネコ科の動物のように、しなやかかつ獰猛なライディングスタイルは、まさしくバレンティーノ・ロッシそのものだった

c0041105_2254772.jpg ダスティなストレートで砂塵を巻き上げながらも、1コーナーのブレーキングでクラッチロウを撃墜すると、S字ではわずかに開いたペドロサのインの迷わず飛び込んでいった

 そして必死の抵抗を見せるマルケスに対しても最後までスキを与えなかった

 かつて、”ホンダが速いんじゃなく、自分が速いんだ”ということを証明するために敢行した同じ”ヤマハ移籍”で、今度は”自分が遅かったんじゃなく、ドゥカティが遅かったんだ”ということを証明したロッシ

 本能のライディングとフロントへの信頼を回復した彼は、同時にパドックでの尊敬も取り戻した

 しかし、彼が本当に取り戻さなければならないモノは、この日トップでチェッカーを受けたチームメイトが持っている…

 ロッシの復活劇は、まだ始まったばかりだ
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by taros_magazine | 2013-05-05 14:51 | motorcycle diary