natural born fighter (MotoGP 08' Round-11 USGP)
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 わずか1時間弱のレースで、ケーシー・ストーナーは4度の耐え難い敗北を味わった

 オープニングから予選で見せた驚速そのままの勢いでホールショットを奪った彼は、これまでの3戦と同様、後はチェッカーに向けて集中力を高めていくだけのはずだった

 しかし、その勝利の方程式に掛ける””は、わずか半周で解析不能な”乱数”と化してしまった

c0041105_22264747.jpg コークスクリューの下りで彼の鼻先をかすめていった””…それは、計算では1ラップあたりコンマ5秒ほども離していけるはずのバレンティーノ・ロッシの姿だった

 LAP4、必死で冷静さを取り戻そうとするストーナーを挑発するように、ロッシはさらにストーナーとの間合いを詰めていった

 ストレートで前に出たストーナーに対し、ロッシが5コーナーでインにねじ込むと、ストーナーは激しくマシンを寄せてきた
 そしてコークスクリューへ向かう短いストレートでは、ロッシを威嚇するかのように左ヒジを突き出し、そのままロッシの前でコークスクリューへ進入しようとしていた

 その瞬間、ロッシの強烈なカウンターパンチが炸裂する

 オープニングラップ同様、コークスクリュー手前の緩やかな右カーブで軽く砂煙を巻き上げるほどギリギリまでアクセルを開け続けたロッシは、ペースアップしたストーナーの目の前を横切り、そのままアウト側のダートまでオーバーランしていった

 誰もが、そのまま丘の斜面をゆるゆると遙かアウト側へ向けて下っていくロッシの姿を想像しただろう
 あるいは間近で見ていたストーナーなら、このスピードで、このセクションで起こりうる最悪の事態を想像したかもしれない

 しかし、この歩いて下るにも恐怖を感じるほどのタイトなS字で、その外側のゼブラゾーンをも踏み越えたダートで、ロッシは砂塵を巻き上げながらマシンを切り返して見せたのだ
 そして路面との段差にフロントを引っかけ前方に投げ出されそうになりながらも、彼は決してアクセルを戻そうとはせず、そのままコースを駆け下りてきたストーナーのマシンの真横に並びかけた

 再びコースに舞い戻ってきた青い閃光に一瞬たじろいだストーナーが思い直したようにマシンを被せていった時、M1はすでにレイニーコーナーへ向けて全開で加速していた

 耐え難い2度の屈辱の後、ストーナーが次の戦略を組み立てるまでには10ラップを要した
 そして実行に移したその戦略は、この短いラグナセカのホームストレートで、可能な限りロッシとの差を広げ、そしてそのまま昇りのセクションでマージンを稼ぐ、というものだった

 しかし、ゆるやかな1コーナーをフルスロットルで抜け、勝負を仕掛けた次のアンドレッティ・コーナーでストーナーがトレースすることになったのは、アウト側ギリギリの土埃にまみれたラインだった

 崩れ落ちそうになる”最速”のプライド、空回りするディフェンディング・チャンピオンとしての意地…鬼神のような走りを見せるこの日のロッシとM1に幻惑されるように、これまでパーフェクトなパフォーマンスを見せてきたデスモセディチは至る所でフロントもリアも暴れだし、そしてまたストーナーの心理状態をも蝕んでいった

 追い詰められたストーナーは、再び禁断の間合いに飛び込んでいった
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 2コーナーから3コーナーでロッシに並びかけると、そのまま4コーナーの立ち上がりでロッシをアウト側のゼブラゾーンまで押し出しそうとした

 ここまでに味わった3度の屈辱…ストーナーは、彼がしうる最大のラフファイトでロッシに同じ気持ちを味わわせてやるために…

 しかし、ストーナーがわずかに残したゼブラゾーンの上のラインで、ロッシは何事もなかったようにスロットルをワイドオープンし、そして昇りセクションを駆け上がっていった

 これは、ストーナーにとってこれまでのどのシーンよりも屈辱的だったに違いない

 自らを耐え難いほどの屈辱と混乱に陥れた相手は、自分の精一杯のイヤガラセに微塵も動揺を見せないどころか、むしろ嬉々としてマシンを加速させていく…

c0041105_22313915.jpg 彼のライディングの命綱である”冷静さ”と”バランス”を欠いたストーナーは、その周の最終コーナーでロッシとの距離をほんの少し見誤った

 そしてゆっくりとダートに飛び出した彼とデスモセディチは、グラベルに”脚”を取られ、あっけなく転倒した

 ロッシの神髄とも言えるが神懸かり的な爆発力が十分に発揮されたバトルに、多くのファンが酔いしれた
 そして今や多数派となった感のある”アンチ・ケーシー”は溜飲を下げることになった。しかし…

 レース後、パルクフェルメでロッシが差し出した右手を、”敗者”は拒否した

 『レースじゃないか』というロッシの言葉に、『上等だよ』と返すと、険しい表情でスタッフに苛立ちをぶつけ、公式インタビューでは「自分のミス」と認めたはずの最終コーナーでの転倒についても、ロッシのブレーキのタイミングが早かった、と主張したという…

 2006年のカタール。5年連続王者とMotoGPニューカマーとして火花を散らした2人の2年ぶりの邂逅は、お互いが背負うようになった物の大きさの分だけ、重く、そして後味の悪いものになってしまった

 生まれついてのバトル好きと、冷静であることを最大の武器とするニューエイジ…

 それは、しょせんは交わることの出来ない、水と油のような2人なのか?
 それとも、グランプリを揺るがす驚愕のバトルを導き出す核融合となるのか?

 いずれにせよ、この日ロッシがストーナーのハートに灯した炎は、1ヶ月程度のブレイク期間中に消えることなど絶対にないだろう


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by taros_magazine | 2008-07-22 22:38 | motorcycle diary


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