呪縛

 派手な水しぶきがあがったのは、「何とかして1匹を…」なんていう気持ちももう薄れかけていた頃だった

c0041105_23241032.jpg 昼下がりの寒狭上流・本谷。そこで自分を歓迎してくれたのは、おそらくは放流されたばかりであろう10センチほどのアマゴばかりだった
 それほど魚影の濃くないこの区間…普段ならそれでも充分楽しめる小さなアマゴたち相手の釣り上がり…
 でも、梅雨の晴れ間の清々しい日差しの中、この美しい渓にふさわしい魚の姿を写真に収めたくて、なかなかカメラの電源を入れるまでには至らなかった

 しかし足下で良型のイワナをバラし、超1級ポイントでナイスサイズのアマゴにティペットを切られ…そんなコトを繰り返しているうちに、気がつけば脱渓点が見えるところまで釣り上がっていた
 そして魚の写真は皆無のままだった

 焦りにも似た気持ちに衝き動かされ、そのままさらに釣り上がった
 しかし、たまに水面に出てくる魚は下流部よりさらに一回り小さいアマゴ達ばかりだった

 焦りはいつしか惰性に変わっていた
 そして目の前の“いかにも”なフラットな流れを、#16のパラダンは珍しく綺麗にドリフトしていた

 『出るんじゃないかな…』
 
 直感的にそんなふうに思えた
 そしてあがった派手な水しぶき…しかし、その時自分がとった行動は、自分でも理解しがたいものだった

 ロッドをあおるでもラインをたぐるでもなく、そのままただ波紋を眺めていた
 そして数秒後、何事もなかったようにフライをピックアップした

c0041105_23251393.jpg 一瞬よそ見をして、合わせるタイミングを逃したわけじゃない。目的の魚種・サイズじゃないことがわかって合わせなかったわけでもない
 ただ、その時の自分の判断は“見ている”ことを選択したのだった…


 翌週、今度は根羽川で出掛けた
 ここでも入渓直後から放流したての小さなアマゴ達のアタックが続いた

 そしてしばらく釣り上がると6寸、7寸としだいにサイズアップしていき、ついに8寸ほどの元気の良いアマゴをキャッチすることができた

 2週間ぶりに取り出したデジカメは、電池が切れていた
 電波の届かないこの小渓での釣りだから、携帯電話も持ってきていなかった

 でも、全く落胆などしなかった
 それどころか、何か重荷を下ろしたような爽快感さえ感じ、その後も存分に美しい景色と力強いファイトを楽しんだ

 これまで、せっかくのニコパチがフィルム未装填だったり、撮影前に尺アマゴに逃げられたりというようなことも何度かあった
 そのたびにいつも言いようのない悔しさに襲われ、その瞬間までの幸せな気分を台無しにし、楽しませてくれた魚たちを恨んだりもした

 以前の自分なら、写真撮影が不能だとわかった時点で楽しさも半減だったろう
 もしかしたら、一旦釣りを中断して車まで携帯電話を取りに戻ったかもしれない

 なのに今は、たとえ“記録”はなくても、フライフィッシングの楽しさは少しもスポイルされない、とハッキリと言える

c0041105_23252856.jpg なぜそんな風に思えるようになったのかは自分でもよくわからない
 ただ、あの本谷でのエアポケットに墜ちたような体験…あの数秒こそが、自分自身を縛り付けていた”何か”から解放した瞬間だったのかもしれない


*tackles  
(at KANSA)
rod:Euflex XF 8'02 #2 (Tiemco)
reel:Fates TM-1 (TENRYU)
(at NEBA)
rod:Freestone XT 8'08 #2 (Shimano)
reel:Marquis Silverface #2/3 (HARDY)

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by taros_magazine | 2008-07-18 23:32 | fly fishing diary


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