命
c0041105_2143383.jpg この谷を目指して車を走らせている時は、いつも”良くない結果”を思い描いては不安な気持ちになってしまう
 もちろん、普段別の流れを目指しているときでも、「先行者の車が止まっていたらどうしよう…」というようなイヤな予感を多少なりとも抱えてのドライブになるのだが、この谷での不安はもっと根源的なものだ

 「まだ、魚は残っているのだろうか…」

 フライフィッシングを始めた頃、年に何度か通った源流があった
 しばらく釣り上がると、次に林道が交差する遥か先まで、そのまま深い谷を遡行しなければならない寒狭川水系きっての本格源流は、その頃の自分の技術でも多くのイワナを釣り上げることが可能な流れだった
 
 しかし、東海豪雨以降その付近の支流での釣りがシブくなると、多くの釣り人がそれまで”自主規制”していたその谷に入っていった
 
 ほどなくしてイワナが釣れるポイントは上流へとズレていき、ついにはときどき小さなイワナやアマゴが釣れる”普通の源流”になっていった
 
 偶然に知った別の源流部は、3日間続けて通って3日間とも良形のイワナが次から次へと飛び出すほど魚影が濃い谷だった
 しかし、隣接する地域の道路工事が進み、渓相が一変すると同時に魚の姿も極端に少なくなっていった…

 この日目指した谷は、さらに悪い状況にさらされている
 
c0041105_21514325.jpg 数年前に県道が再整備されたのに伴い、これまでその谷を覆い隠していた森は切り開かれ、堰堤が造り出すプールがあらわとなり、さらに釣り人を誘うかのように駐車スペースまでが確保されてしまったのだ

 付近にはたちまち釣り人の放置するゴミが散乱し、山の斜面には産廃までが不法投棄されるようになった
 プールの横の”広場”はたき火の跡が何カ所も残され、谷にはハッキリとわかる踏み跡が目立つようになっていった

 それでも、この日のわずかな時間にこの流れを目指した理由…それは『5月後半』、『雨の後』、そして『夜明けと同時』…という、考えられるすべての好条件を揃えた上で、この流れにイワナがまだいるのかどうかを確かめたかったからだった

 しかし、目の前にあったのはいきなり愕然とする光景だった

 2日前にあれだけの雨が降ったはずのこの森の中の流れは、まるで盛夏の渇水時期のように細かった
 そしてどのポイントからもイワナは姿を見せようとしなかった

 焦りにも似た激しい不安を抱えたまま、次から次へとポイントを叩いていくが、状況は変わらない…
 
 やがて、この森の中で唯一思いっきりキャストできるポイントにさしかかった
 まるでハイプレッシャーな有名河川での釣りのように、ラインを細く長くし、フライを小さくし、そして枝の陰からそっとプレゼンテーションした

 最初に10センチちょっと、次に15センチほどのイワナがやっと顔を見せてくれた…

c0041105_21521248.jpg 
 森から戻り、峠を下り、さっきの谷の流れが注ぐ支流で少しだけ竿を出してみた
 あのイワナよりも大きいアマゴがウソのようにたくさん釣れた

 何の疑いも持たないかのように毛鉤に飛びつくアマゴたちを見ているうちに、数十分前まで自分を苦悩させたあの森のイワナたちのスレた態度が悲しいほどに頼もしく思えてきた

 ベストシーズンを迎えた寒狭上流…そこはキャッチ&リリース区間でもなければ、もちろん禁漁区でもない

 あの森のイワナたちがこれからも生き延びていくためには、”釣られない”ことが何よりも大事なのだから


*today's tackle
rod:George Selvin Marryat 8'00 #2 (Marryat)
reel:SK-1 (Caps)

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by taros_magazine | 2007-05-30 22:02 | fly fishing diary


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