本音

 「”板敷川”と呼ばれるほどの綺麗だったはずの川が、今では苔は真っ黒く変色し、夏にはコンブのような藻が生えてしまう。釣り人は『こんな川では釣りたくない』と言う。自分たちでも『これは川じゃない。宇連ダムと大野頭首口をつなぐ水路だ』と言っている…」

c0041105_0201171.jpg 毎年300万円もの赤字を出しながら、なんとか遊漁事業を続けてきた宇連川漁協の組合長が発した強烈なメッセージ…
 しかし、この”罵詈雑言”にこそ、組合長の渓に対する愛情が痛いほど感じられた
 さらに続けた言葉…「こんなふうに、寒狭川がなってしまうのかと思うと、もうたまらん気持ちです」
 これを、会場の一番後ろで聞いていた、当の寒狭川上流漁協の組合長はどんな気持ちで聞いていたのだろう…

 この日設楽町で開催された”設楽ダムは今? 豊川上流・下流から市民の本音トーク”と銘打たれたこのフォーラムは、豊橋市内の市民活動団体らが主催し、環境・公共事業の専門家、それに下流域の農家や上流…つまり水没(予定)地域を抱える設楽町の町議、それに寒狭川上流漁協の組合長らがパネリストとして参加し、それぞれの立場からの意見・報告や参加者との質疑を行うというものであった

 正直、この種のイベントにはあまり期待はしていなかった
 特定の政党の主張が色濃く反映された発表内容や、ダムの”負”の部分ばかりを強調するバランスと視野の欠けた”正論”、そして語るごとに脳内モルヒネを抑えきれなくなり脱線していく発言…
 でも、そうなることは承知の上で、どうしても聞きたい事があった

 それは、この日の次第の中にあった1行…
 『ダム建設によって設楽町はどのような利益を得られますか  報告:寒狭川上流漁協組合長』の文字…
 これだけを聞きたくて、四十数回目の誕生日を渓流シーズンを終えた設楽町で過ごすことを決意したのだ

c0041105_0203784.jpg その待ち望んだ報告は、自分にとってゼロ回答以下のものだった

 「自分が組合長になってから、全国いろんな川も見てきました。しかし、寒狭の鮎は日本一美味しい、川も本当に綺麗で、やっぱり寒狭川が一番だと思う」
 こう評した上で、川の上流部の大半がダムに沈むことについては、次のように述べた
 「私がダムについてあれこれ言うのは、控えさせていただきたい」
 
 持ち時間を数分残して演台を去った組合長は、質疑応答の時間にはパネリストの席には着かず、一般参加者が座る会場の一番後ろの席に座っていた
 そして冒頭の宇連川漁協の組合長が述べたメッセージにも返答することはなかった…

 質疑は”どうしたらダム建設を止められるか”について、裁判をやっていこうとか、ネコギギを象徴にして活動の輪を広げて行こうなどの発言が名古屋や豊橋の参加者から相次いだ
 逆に地元の住民の意見はほとんど聞けず、選挙違反スレスレの事前運動があったり、いわゆるプロ市民の”煽り”の類だけがヒートアップしていった

 やがて終了予定時刻が迫り、どうやら自分が発言…寒狭の組合長に対する質問…をする機会は持てそうにないことがわかったので、会場を出ることにした
 
 帰り際に見た組合長の姿は、そのジャケットの色と同様、くすんだ顔色で憔悴しきっているように見えた

 たとえダム建設について賛成だろうと、条件付き賛成だろうと、そのことについて組合長個人を批判しようとは思わない
 ただ、”愛する日本一の川”が、その姿を大きく変えようとしているとき、漁協としてその未来にどんな絵を描いているのかが知りたかっただけだった

 苦渋に満ちた表情で寒狭川に対する愛情を語ったあの10分弱の間
 その背後に掲げられた”本音トーク”の文字が、ただただ虚しかった…
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by taros_magazine | 2006-10-22 23:53 | toyohashi diary


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