特別な川
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 その言葉を聞いたのは、自分がフライフィッシングを始めて間もない頃だった

 北海道の渚滑川での試みを特集したフライ専門誌の記事には、来るべき渓流釣りの理想像が描かれていた
 『再放流されたレインボーは、さらに大きく、強く、美しく成長し、ふたたび釣り人を楽しませてくれるだろう…』

 そんな記事を読みながら、仲間うちで話したものだった
 「あのさ、寒狭でも大名倉はやるべきだと思うよな」
 「そうだな、漁協だっていつまでも鮎だけで人が呼べるワケじゃないんだし、フライフィッシャーとかをたくさん呼べる方が得に決まってるもんな!」 

 あれから10年以上経った
 ”キャッチ・アンド・リリース”を実践する川は確かにいたるところにできた

 しかし、実際に訪れたそれらの川は、最初のうちこそフライフィッシャーを中心に多くの釣り人で賑わってはいたものの、時が経つにつれて色あせてしまっているように見えた
 あの頃、右肩上がりで釣り業界を席巻していたフライフィッシングそのものも、やがて量販店では専門のコーナーは縮小され、あるいは消えてしまった
 
c0041105_0383965.jpg 『しょうがないよ、放流がなけりゃ魚なんかいなくなっちゃうんだから…』
 
 いつしか自分自身も放流された渓魚を、1シーズンかけて消費していくような従来からの渓流での釣りに対して問題意識を持たないようになっていた

 しかしこの1~2年で、いろんな方法で魅力的な渓流を築こうとしている川(漁協)をいくつか知ることとなった

 西野川では、とにかく”サイズ”にこだわった放流とキャッチ・アンド・リリースに、地元の観光協会も一緒になって取り組んでいた
 忍野では、豊かな湧き水の川に毎月の放流を行い、”いつ訪れても魚が見える川”にしようとする姿勢が感じられた

 それに比べると、この日始めて訪れた石徹白は少し異質な川に見えた

 西野や忍野が”釣り人をいかに喜ばせるか”という部分に視点を置いているのに比べ、この峠川は”釣り人も一緒に考えてくれ”と言っているように感じたからだ

 これまで、自分が描いていた峠川のイメージは、手つかず自然の中を流れる濁りひとつない清流の中に、宝石のようなイワナやアマゴが群れている…そんなものだった

 しかし、この日目にしたのは、いくつもの大規模なスキー場やキャンプ場、そしてところどころに無骨な護岸が施された川沿いには集落という、いわば”典型的な里川”だった

c0041105_0382577.jpg 自分はこの石徹白のC&R区間実現に尽力し、今も各地で在来渓魚の保護・調査活動を続けている斉藤さんのお話を伺いながら川沿いの道を歩いて下流へ向かった
 斉藤さんの熱い想いと、秋田の片田舎の生まれの自分にはどことなく懐かしく感じる集落の景色に、釣り始める頃にはすっかりリラックスしていた

 そして、石徹白の渓魚との”知恵比べ”を存分に楽しむことができた…

 帰り道、斉藤さんを中心に渓流のこと、ロッドのこと、そして魚のこと…この日ともに釣りを楽しんだ皆で食事をしながら語り合った

 そのとき、峠川で感じた”釣り人も一緒に考えてくれ”という、『川の叫び』の意味がわかった

 そう、峠川は、いつも自分が出かける寒狭川や根羽川、それに他の全国の多くの渓流と、川自体は何も違わない”普通の川”なのだ
 でも、そこに関わる漁協、釣り人、住民…それら多くの人が知恵を出し、意見を闘わせ、そして汗を流して、多くの釣り人を魅了する”特別な川”にしてみせたのだ

 だからこそ、この川を訪れた釣り人は”自分にできることが何なのか”を考えずにはいられなくなるのだと…

 あの頃…自分たちが雑誌を見て”バラ色の未来”を夢想していた頃、石徹白ではその未来のために行動している人がいたのだ

 もしかしたら、ほんの些細な要因でこの素敵な川も”普通の川”に戻ってしまうかもしれない
 でも、そうなりそうな時は、今度こそ自分も行動しようと思う
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*other side …
一から出直し修行的毛鉤釣』(by Mr,godzilla2004)
It's only C&R』(by Mr,Rolly)
Step into the river』(by Mr,BILL)

*today's tackle
rod:Rightstaff 7'10 #3 (CFF)
reel:CT 3/4 (Redhigton)

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by taros_magazine | 2006-08-29 00:48 | fly fishing diary


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