桃源郷
 
 普段は少し濁った水が細々と流れているだけのその貧相な谷は、雨が降った後のほんの一瞬だけ、生命の躍動感に満ちた”桃源郷”に変化する

c0041105_22184974.jpg まるでこの数日の間降り続いていた雨が小休止するのを待っていたかのように、ポッカリと空いた数時間のフリータイム…迷わずこの小さな渓にやってきた
 水量も、その水の透明度も、そしてあたりを飛び交う虫も、すべてがここへ来るまでにイメージしていたとおりの、輝きに満ちた最高のコンディションだった

 ただ、魚の反応だけが想像外だった

 昨年27センチのアマゴを釣ったプール、尺アマゴを撮影前に逃がしてしまった淵、28センチのイワナが飛び出した筋…
 それらの好ポイントから竿抜けまで、どこもかしこも完全に沈黙したままだった

 すると、つい数10分前まで”バラ色”に見えていたハズのあたりの景色が、急速に色を失っていくように感じた

 薄いグレーの空から降り注ぐ淡い光が、濃いグレーの川底をかすかに照らす…そんなモノクロームのグラデーションの中で、いつしか自分の頭の中までが白くぼやけていくようだった

c0041105_22193156.jpg そんな気持ちのまま、灰色のコンクリートの堰堤を越え、白く真新しい護岸を駆け下りると、魚止めの小さな滝が見えた
 
 その滝の落ち込む淵では、何度も大物を掛けてはバラされていたけど、この日はもうそこで粘る時間もなく、何よりも気持ちがとっくに”切れ”ていた 
  
 帰り際、淵の手前の足首までしかないような浅い瀬に何気なくフライを投じると、小さな飛沫が上がった

 ランディングネットに納まったその魚体に記された濃いグレーの斑紋、そして…
 体側にちりばめられた鮮やかな朱点を見たとき、まるで白黒の映画が突然”総天然色”になったかのような感覚に陥った 
 その瞬間から、まわりの草木は滴を称えて七色に輝き、その中に満開の山つつじの紫がひときわ鮮やかに色彩を放ち始めたようだった
 
 そんな魔法使いのような小さなアマゴを、小さな谷を縫うように流れる細く浅い流れにリリースする

 彼女が戻っていったその流れは、何十、何百の鱒の息遣いを感じる、まさに桃源郷と呼ぶにふさわしい渓に見えた

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*today's tackle
rod:Cremona 7'11 #2/3 (Coatac)
reel:Silver Marquis 2/3 (HARDY)

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by taros_magazine | 2006-05-19 22:48 | fly fishing diary


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