この渓で、この区間で、フライフィッシングの楽しさを知った
地図とニラメッコして渓相を想像し、初めて自分の判断で選んだポイント…
わずかな踏み跡をたよりに下りた谷には、白い沈み石の上で悠々と定位しているアマゴの姿がはっきりと確認できた
未熟な技術とあり合わせのマテリアルで巻いたフライ…それは、基本的には今も変らないけど…を、精一杯のソフトプレゼンテーションで鼻先1メートルに落としたあの日…
あれから10数年が経過した
あの頃毎週のように通ったこの区間は、何度かの水害と未曾有の渇水、それに着々と進むダム計画の影響が、ぱっと見にもわかるほど変化してしまっていた
いつしか、その区間にまったく足を運ばなくなっていた。そして、その区間を避けるように源流域を目指したり、別の支流へ通っていた。あの沈み石のあった流れを車窓から眼下に眺めながら…
今日は、あの頃と同じように路肩のスペースに車を止め、かすかな木漏れ日の差し込む椎茸の原木の間を抜け、廃屋となってしまった一軒家の近くにある小さな滝の上から入渓した
すると目の前に開けたのは、すっかり川幅が広くなってしまっていたけど、紛れもなく懐かしい香りのする大名倉川だった
もう、それだけで胸がいっぱいになってしまっていた
あの頃、この区間で釣れたアマゴやイワナが、どんなフライにどんなふうに飛び出してきたのか、そのとき自分はどんな帽子を被って、どんなロッドを振っていたかさえも思い出すことができた
そして、あの”白い沈み石”があったところにやってきたとき、思わず「あ…」と声を出してしまった
その区間だけが…本当にその岩肌に沿って流れる細い筋だけが、何事もなかったかのようにそこにあったのだ
あのときと同じように、精一杯のソフトプレゼンテーションで落としたフライは、あの沈み石があるはずの付近で、飛沫とともに消えた
しかし、合わせたはずのロッドに伝わってきたのは鈍い感触だった
手前の渓石あたりに沈んでいた枯れ木にラインが引っ掛かっていたのである
2度3度と激しくロッドを振り、やっとラインを解放したときには、すでにフライは水面に還っていた…
思えばあの時もそうだった
フワーっと浮いてきたアマゴがくわえたヘタクソなパラダンは、合わせた瞬間にティペットごと切れてしまったのだ
ウィンドノットができているのを見ていたのに、そのまま釣りを続けていた結果だった
今日も手前に枝があることはわかっていた
なのに、はやる気持ちを抑えられずにラインを垂らしてしまっていた…
激しい後悔と反省…なのに…
それすら楽しくて仕方がない
だって、何年も前に無くしたはずの”宝物”が戻ってきたのだから
*today's tackle
rod:Euflex XFP8'03 #3 (TIEMCO)
reel:CFO1D (ORVIS)
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