four feelings  (MotoGP 2012 summer ~ autumn)

c0041105_2145014.jpg この2年間のすべてが無駄だった

 莫大な努力と壮大な時間の浪費・・・

 込み上げてくる負の感情を押し殺したバレンティーノ・ロッシは、ピットボックスで赤いマシンから降りると、労をねぎらいにやってきたフィリッポ・プレチオージの前を素通りしていった

 あの日、イタリアの誇りに跨ったイタリアの英雄にイタリア中が熱狂した

 日本式の仕事の進め方を揶揄し、意気揚々と乗り込んできたイタリアのチームで、10個目のタイトルを獲得した後には今度は赤い4輪のマシンを…

 そんな彼の確信に満ちた未来図はあえなく崩壊した
 勝利はおろか表彰台すら遠く離れた位置でもがき続けた2年間…

 誇りも自信もズタズタに引き裂かれ、跳ね馬でのレースもあきらめた彼は、いつの頃からか日本製のマシンにもう一度乗ることだけを願うようになっていた

 果たして、彼の”最後の”願いは叶えられた
 しかし、それは一切の言い訳が許されないことを意味する

 ロッシがロッシであるための、すべてを賭けたシーズンがいよいよ始まる

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c0041105_21452637.jpg ダニ・ペドロサは、突然”化けた”のではない

 彼が誰に何と言われようと、ただひたすらに続けてきたハードアタックを、今彼は完全に自分のモノにし、そして遂に完成形に至ったのだ

 MotoGPクラスでのデビューレースが象徴したように、若き日の彼は経験を積み重ねながら着実にステップアップをしていこうと思っていたはずだ

 しかし、速さでは負けていないと思っていたニッキー・ヘイデンがタイトルを獲得し、かつての同門や同郷のライバルにも先を越され、”優等生”はいつしか誰よりも熱く、激しい走りをするようになっていた

 その兆しが見えたのは2010年のUSGPだった
 トップを走行しながら5コーナーでクラッシュパッドまで飛ばされたあのレース…

 あの時のダニは、明らかにそれまでの彼ではなかった

 前年には後続との差を計算しつくした憎らしいほど完璧な勝利を見せたそのラグナ・セカで、こじれたフロントを浮かせたままフル加速し、ゼブラをカットし、彼以外には見えない誰かを追うように攻め続け、そして散った

 そして今、ホルヘ・ロレンソをブレーキングで差し、ケーシー・ストーナーのようにフルバンクで両輪をドリフトさせる彼…

 もしかすると、あのラグナ・セカで彼が追い続けたのは今のダニ自身だったのかもしれない

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c0041105_21455619.jpg この男は決してあきらめない

 最後の最後、その瞬間まで、自分には絶対にできると信じている

 最終戦、ウェットのバレンシア

 ラップタイムで5秒遅いジェームズ・エリソンを抜きにかかったホルヘ・ロレンソは、水の浮いたラインに乗ると激しくマシンを振られた

 瞬時に抜重しリアをグリップさせ、同時にわずかにマシンを起こしフロントを回復させると、未だ挙動の収まっていないマシンで、同じく濡れた路面で、彼は再びオーバーテイクを試みた

 直後、派手にマシンから振り飛ばされるまでの、1秒にも満たない瞬間の彼の驚異的な反射神経とマシンコントロール…

 しかし、彼がこのような芸当を見せたのはこれが初めてではない

 2009年、フィリップアイランド
 高速の1コーナーでニッキー・ヘイデンのリアに接触してしまったロレンソは、そのままなすすべなくスリップダウンするかに見えた

 しかし、ダスティなトラック上で、彼はもう一度マシンをバンクさせるとコーナーの出口にマシンを向けようとスロットルを開けた

 滑るマシンをブレーキとバンク角で何度もコントロールしようと彼の試みは、接触時にすでに破損していたフロントブレーキにより果たせなかったが、200kmを超えるハイスピードでコースアウトしようとしているマシンを”立て直せる”と信じられるライダーはこの男だけだろう

 新たなチームメイトとして仇敵ロッシを迎えることすら問題にしなかった”王者”

 その寛大さの根拠は、自分の技術に対する絶対的な信頼だろう

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c0041105_21462044.jpg "GOING FISHING"

 それが、グランプリに革命的なライディング・スタイルを持ち込んだ天才に対する最後のピットサインだった

 彼以外、誰も乗りこなせなかったデスモセディチでタイトルを獲得し、カムバックしたホンダで10勝を挙げて再び王者となると、その翌年には引退を宣言してしまう…

 スマートで純朴そうな外見に似合わない激しい気性と、彼にしかできない常軌を逸したライディング…

 そのあまりの速さがもたらす完璧な勝利の方程式は、サーキットにスペクタクルを求めてやってきた観客からブーイングさえ浴びるほどだった

 それでも彼はスタイルを変えなかった

 後続に自らの影を踏ませる隙を与えず、ただひたすらにスピードを上げていく走り

 そのライディングは、ロレンソやペドロサといったライバルが成長してくるにつれて、異次元の高みへと突入していった

 気がつけば、誰もが彼のそんなライディングの虜になっていた

 その矢先の引退…

 しかし、自らの足で愛する家族の元へと帰っていけることがどれほど幸せか…ということを、この数年の間に起きた悲劇を目の当たりにした彼の仲間たちも、そして私達ファンも知っているからこそ、ストーナーを笑顔と拍手で送り出した

 イン側のゼブラゾーンにブラックマークを引いていく彼の姿を、いつまでも忘れない

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 すべての喜怒哀楽をはらんだ、人間と機械の究極のコラボレーション、MotoGP

 その新たな幕が、今また上がる
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*諸事情により、半年以上当ブログを放置しておりました。コメントいただいた方、閲覧していただきました方、皆様に深くお詫びいたします
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by taros_magazine | 2013-04-05 22:02 | motorcycle diary


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