" Let it rain " (MotoGP 2012 Round-4 France)
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 カルメロ・エスペレータがどれほど目を吊り上げて否定してみせても、それは傾きかけたMotoGPにとってあまりにも痛烈な一撃だった

 現王者にして今シーズンも圧倒的な速さを見せつけている稀有な才能が、驚くほど率直な言葉で語った引退宣言…

 現在のグランプリの方向性を真っ向から否定し、「楽しくない」と言い放ったケーシー・ストーナー…
 もちろん「シーズン終了までは全力で走る」と約束はしたものの、その思いを吐き出した彼を濡らすル・マンの冷たい雨は、いまや風前の灯となってしまった彼の情熱の炎をそのまま消し去ってしまうのではないかと思えた

c0041105_11572161.jpg 今の彼にとって何より大事なのは、時に限界を超えたプッシュでリザルトを追い求めることでも、来年の契約のためにチームに忠誠を尽くすことでもない

 この数年、何度も残酷な瞬間を目の当たりにしてきた彼の最大の願い…それは11月にバレンシアのパドックから自らの足で去り、そして笑顔で家族の元に戻ることだろう

 『ストーナーは本気で走らないかもしれない…』

 レースが始まるとその危惧が現実のものとなってしまったようだった

 オープニングラップから毎周1秒ほども逃げていくホルヘ・ロレンゾに対し、ストーナーはほぼ無抵抗だった

 その差が4秒まで広がった時、ようやくペースを上げ追撃体制に入ったかに見えたが、微妙に変化していく路面コンディションに翻弄され激しく暴れるマシンに対し、いつものように超人的なマシンコントロールでムチを入れるのではなく、後方の3位争いとのギャップをキープすることに専念するかのように、マシンを立てて丁寧に走り続けた

 それは、すでに引退を口にした王者としてはごく当たり前のレースだった
 後は、いつものようにポイントを積み重ねてフィニッシュするだけだった

 しかし、いつもと違う点がひとつだけあった

 3位との差がみるみる縮まってきたのだ
 サインボードに"ROSSI"の文字が現れるようになってから…

 やがてストーナーの耳にも、久しく間近で聞くことのなかったデスモセディッチの咆哮が響くようになった

 ”ロッシが来た”

 同じく引退が噂されながらも、反対にキッパリと否定したバレンティーノ・ロッシが
 子どもの頃からの夢だったグランプリを変貌させたドルナの”至宝”が
 そして、去年の雨のヘレスで自分をグラベルに沈めた”かつての”最大のライバルが…

 ストーナーの真後ろに付けたロッシの姿が、当のストーナーはもちろん、見る者全ての緊張感を高めていく

 しかし、ロッシは動かない

 明らかに挙動の不安定なストーナーのマシンを見ても、ラップタイムでは明らかに自分が速いということを分かっていても、ロッシはなかなか動かなかった 

 本来は得意なはずだった雨…でも、いつの間にか”リスク”にしか思えなくなっていた雨…
 
 あのヘレスはもちろん、ここ数年のレインでの苦い経験を逡巡しながらも、ロッシが遂に動いた
 
 その瞬間、ストーナーも何かを振り切った
 ラップペースで上回るロッシを抑えるきるために、彼は本気でロッシに立ちはだかった

 すぐさまクロスラインで差し返し、めったに見せないブロックラインを走り、マシンを震わせながらもアウトから寄せていく…その走りは、くしくも2人の確執のきっかけとなった2008年のラグナセカでのロッシのように情熱的だった

 最終的にはロッシが見せた入魂のラストスパートに突き放されてしまったものの、この3位はストーナーにとって”いつもの”2位よりもはるかに満足できるものだったろう

 そしてロッシ…彼がこのリザルトから得た自信は、今後のレースにおいてニューシャシーよりもはるかに大きな武器となるだろう

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 おそらく、ストーナーの引退の決意は覆らないだろう
 でも、彼がグランプリに対して抱いていた失望のうちいくつかを解消することはできたはずだ

 あの因縁のバトルから始まり、雨のヘレスでピークに達した2人の王者の確執…それを流し去ったのも、やはり2人のバトルと雨だった

 ロッシとストーナー

 遂に認め合った2人が奏でる最終楽章は、はたしてどんなものになるのだろうか…

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by taros_magazine | 2012-06-01 11:20 | motorcycle diary


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