" 魔王 " (MotoGP 2010 Round-1 QATAR)
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 ロッシの顔が変わっていた

 それは「髪が伸びた」とか、「年をとった」とかいうような外見的に見て言葉で表せるような変化ではなかった
 
 それは、これまでバレンティーノ・ロッシという”皮”を被り、バレンティーノ・ロッシという人間を演じてきた何者かが去り、そしてこのカタールからはまったく新しい別の何者かがその皮の中にいるような、「何処が」とははっきりわからないけれども確実に何かが違うというレベルの変化だった

 そんな”違和感”は予選終了後のインタビューからも伝わってきた

 ケーシー・ストーナーの圧倒的なスピードに対し、いつものように「何とかしなくちゃ」とか「ついていくのは難しいかな」などと言ってはいたが、それはこれまでのように自らとチームを奮い立たせるようなニュアンスではなく、むしろ隣で聞いているストーナーにプレッシャーをかけるように、微妙に表現を変えながら何度も繰り返していた

c0041105_15294292.jpg ついに始まったグランプリシーズン…
 
 その開幕戦は、緊張感の中にも久しぶりに会う多くの友人・知人との交流でどこかアットホームなムードの漂う独特なレースウィークのはずだった
 
 しかし、ロッシが醸し出すその違和感のせいなのか、今年の開幕戦はそれまでとはまったく違う異様な雰囲気に包まれていた

 シグナルがブラックアウトすると、そのテンションはさらに張り詰めていく

 このサーキットに絶対的な自信を持っているストーナーは、暴れるマシンをまったく意に介さず、力で押さえつけながらラップごとに危険な領域にまで攻め込んでいった

 ”競り合いに弱い”という風評に激しく抵抗するように、ダニ・ペドロサはロッシやホルヘ・ロレンゾといった当代きってのハードブレーキ・マスターに対し、タイヤのライフも顧みず何度も極限のブレーキング勝負を仕掛けてみせた

c0041105_1530330.jpg しかし、取り憑かれたようにマージンを削っていったストーナーのライディングは遂に破綻し、ペドロサのマシンもまた悲鳴を上げはじめた

 終盤、ペースアップしたロレンゾがやっとの思いで視界に捕らえたロッシの姿は、アンドレア・ドヴィツィオーゾとニッキー・ヘイデンの意地の張り合いが散らす火花の遥か向こう側だった…

 そしてロッシは涼しい顔でチェッカーを受けた
 彼のマシンはそれを待っていたかのように、直後に鼓動を止めた…

 これまでもロッシが勝った時には、何か大きな力が作用し、すべてがロッシのためにたなびいているように感じることがあった

 しかしこの砂漠のナイトレースで繰り広げられた出来事は、『すべてがロッシの勝利へと向かっていた』というよりも、むしろ”ロッシ自身”が全てをコントロールしていたように見えた

 表彰台でトロフィーを掲げるロッシの表情は、やはり去年までとはまったく違って見えた

 グランプリに君臨してきた”太陽王”ロッシは、この闇夜のレースで全てを支配する”魔王”にその姿を変化させたようだった

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by taros_magazine | 2010-04-29 15:38 | motorcycle diary


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